バイオマス燃料の不足問題から環境価値の創出までを解説!近年、気候変動対策としてカーボンニュートラルが叫ばれるようになっています。このカーボンニュートラルの達成には化石燃料の使用を出来る限り減らし、代わりに再生可能エネルギーを用いることが必要です。バイオマスはこの再生可能エネルギーの一種であり、カーボンニュートラル達成のための重要なエネルギーと位置付けられています。本記事では、このバイオマスに焦点を当て、バイオマス不足問題から環境価値の創出までバイオマスについて幅広く解説いたします。そもそも、バイオマスとは?バイオマスとは植物や動物由来の有機物を指しています。このバイオマスがカーボンニュートラルと言われる理由は、植物が大気中の二酸化炭素を吸収し、太陽光エネルギーにより光合成をおこなうことで有機物を作り出しているためです。この時、植物は大気中の二酸化炭素を吸収しているので、この植物を燃焼させて二酸化炭素を排出させたとしても二酸化炭素の吸収量と排出量が釣り合います。従って、大気中の二酸化炭素の量は変化しません。一方の化石燃料は地中に埋没し保存されていた炭素を燃やすため、排出された二酸化炭素分だけ大気中の二酸化炭素量は増えてしまいます。つまり、炭素がバイオマスと大気を循環しているため、カーボンニュートラルなエネルギー源である、と言えます。代表的なバイオマスと言えば木材が挙げられます。道端に生えている雑草もバイオマスと言えます。他にも微生物を利用して作るバイオ燃料などもあります。このバイオマスは現在幅広く使用されており様々な用途で使用されています。バイオマス燃料の不足問題が本格化近年、バイオマスによる火力発電では、バイオマス燃料不足が問題となっています。これは、バイオマスは価格が比較的高い上、採算に合う安価なバイオマス燃料の供給量がまだまだ少ないためです。これは、新規にバイオマス発電所を建設する際の下押し圧力となっています。木質バイオマスを燃料にして火力発電を行う場合、燃焼させやすいようにバイオマスを加工して木質ペレットを作ります。この時使用される原料として、木材の端材など廃棄するような素材が主に使用されており、木質ペレットの原価が抑えられています。つまり、木質バイオマスの供給は端材や廃材などに依存しているために供給量がある程度決まっています。このため、木質バイオマス発電量が増えて需要が高まると供給量が追いつかずにバイオマス不足になってしまいます。また、火力発電に使用するバイオマス原料の価格は、売電で利益を出せるだけ十分に安くなければなりません。畑でバイオマス原料となる植物を海外で育てているケースもありますが、収穫や輸送、加工を行っても十分に安くなければなりません。このため、円安や戦争、異常気象などの外的要因によりペレットの価格が上昇してしまい、安いバイオマスが手に入りにくくなりバイオマス不足に陥るケースも出てきます。飼料不足問題!日本のウシは大丈夫?!ウシの飼料には大きく分けて「粗飼料」と「濃厚飼料」があります。粗飼料は牧草などの草が主体であり、食物繊維を多く含んでいます。この草をそのまま与えたり、乾燥や発行させて与えたりウシがよく育つように工夫がなされています。粗飼料には藁、ススキなどが使用されます。粗飼料は繊維質を多く含んでいるので、ウシの健康に無くてはならない飼料です。一方の濃厚飼料は餌用のトウモロコシや大豆、小麦といった穀物を使った飼料の事です。穀物には炭水化物の他にもタンパク質などウシの身体を成長させる栄養素が含まれているため、この穀物の配合次第で牛肉の味が変わります。このように、ウシの飼料には植物が使用されているので、ウシの飼料はバイオマスと言えます。また、ウシはバイオマスを餌にして育つので、牛肉や牛乳もバイオマスと言えます。昨今ではこのウシの飼料不足が問題となっています。なぜ?ウシの飼料不足が問題に!?円安や戦争、異常気象などによるバイオマス価格への影響は発電用の木質ペレットに限ったことではなく、海外から輸入しているバイオマス全般に言えます。ウシの飼料は海外からの輸入に頼り切っており、平成30年度の農林水産省の概算では、日本の飼料自給率は家畜全体で25%しかありません。粗飼料は76%と高い自給率ですが、濃厚飼料はわずか12%とほぼ海外からの輸入です。これは国内で生産するよりも海外から輸入した方が値段は安いためです。つまり、大半は輸入品なので円安や戦争、異常気象などが起こり海外産の飼料価格が高騰してしまい入手しにくくなってしまいます。この上、国内産の飼料も少ないため、結果的にウシの飼料不足に陥ってしまいます。一方で、円安の場合は海外飼料の値段が上がりますが、相対的に国産飼料が安くなるため国産飼料が競争力を持つようになります。このため、最近では円安対策の他にも価格安定化やリスク分散のためにも国産飼料の生産が行われるようになりつつあります。国産飼料の供給量が増えて飼料の自給率が上がることで、飼料不足の改善が見込まれています。※参照:独立行政法人 農畜産業振興機構 https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001231.html 木質ペレット不足でバイオマス発電所の廃業危機バイオマスは自然由来の素材ため、大量に使用すると森林伐採などを通して大規模な自然破壊を引き起こしてしまいます。このため、自然破壊を引き起こさないように使用する分を計画的に生産する必要があります。また、木材の端材や廃材をバイオマス燃料として使用する際にも供給量は端材や廃材の量で決まってしまうため、供給量を増やすことは難しいです。さらに、バイオマス燃料を輸入した場合は様々な要因により価格が安定せずに発電計画が立てにくいという一面があります。このため、バイオマス燃料を使用した発電は不安定で、木質ペレットやパームオイルなど輸入品の価格高騰により、国内のバイオマス発電所で廃業する所も出つつあります。バイオマス発電とはどんな発電?バイオマス発電ではバイオマス燃料を燃やして火力発電を行います。バイオマス燃料として使用するためには、バイオマス燃料が効率的に燃焼しなければなりません。不完全燃料を起こしてしまうとボイラーの温度が上がらず、発電効率が落ちてしまいます。このため、バイオマス燃料は燃焼しやすいように原料に乾燥などの処理を施し木質ペレットに加工します。この木質ペレット燃料をボイラーの燃料として燃焼させ、水を加熱して蒸発させて、高温高圧の蒸気を作り出します。この高温高圧の蒸気をタービンに送ることでタービンを回転させ、発電させます。つまり、バイオマス発電は化石燃料を使用した発電と同じ方法が用いられており、石炭や石油の代わりにバイオマスを燃焼させて発電しています。バイオマス燃料は木質ペレットのように直接燃やすこともありますが、油状のバイオマス燃料を気化させてそのガスを燃焼させることもあります。日本のバイオマス発電事業者の現状日本政府はカーボンニュートラル達成のため、再生可能エネルギーを利用した発電を積極的に導入いています。この再エネ拡大の推進力となっているのがFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)です。このFITでは、再エネで発電した電気は電力会社が固定金額で買い取るように定められているため、売電価格が一定となり利益を上げやすくなります。2012年7月にFITが導入されて以降、一般事業者が参入しやすい太陽光発電とバイオマス発電は一気に拡大し、太陽光発電量とバイオマス発電量が日本の全発電量に占める割合は年々増加しています。一方で、バイオマスの発電量が年々増加することは、その分だけバイオマス燃料の需要が高まることを意味しています。バイオマス燃料の需要が高まるにつれて次第に木質ペレット製造事業者によるペレットの供給量が追いつかなくなります。さらに、安価なバイオマス燃料の供給には限りがあるため、バイオマス燃料の取り合いとなり、ペレット不足が深刻化するようになりました。バイオマス燃料が不足すると、その分だけ発電所の発電量を減らさざるを得なくなり、売電による収入が減ることになります。これに加えて、円安などの外的要因により海外輸入によるバイオマス燃料の価格が高騰すると、発電単価を押し上げてしまいさらに売電による利益が下がります。実際に、バイオマス発電では木質ペレットやパーム油など燃料を海外依存している発電所の撤退が相次いでいます。さらに、FIT期間が終了すると固定価格で売電できなくなるため、売電価格が下がり経営が苦しくなります。このように、バイオマス燃料の調達を海外に依存している場合及びFIT期間が終了した場合に経営が厳しくなる傾向があると言えます。将来的にはバイオマス発電はどうなる?日本政府は2021年の第6次エネルギー基本計画において、2050年には全体の発電量の約50~60%を再エネ由来電力で賄うことを目標にしています。この目標を達成するため、日本政府としても再エネ普及のためバイオマス発電をバックアップしていくことが予想されます。また、バイオマス発電は火力発電なので、太陽光発電のように太陽が出ていない夜間に発電できないなどというデメリットは無く、一日中発電できるので発電量を調整できるというメリットがあります。一方で、バイオマス発電は他の再エネ発電に比べて燃料コストが高いという欠点があります。以下のグラフは木質バイオマスの原価構成比を示したグラフです。このグラフより、木質バイオマス発電の原価の約70%を燃料費が占めていることが分かります。また、燃料費の内訳を見てみると、輸送費が約85%であり輸送コストが大半を占めています。このため、売電により利益を上げるためには輸送費のコストを下げることが大切と言えます。出典:経済産業省 P22https://www.meti.go.jp/shingikai/energyenvironment/biomasshatsuden/pdf/0010200.pdf以下のグラフは日本のバイオマス発電における燃料調達割合を示しています。このグラフより、大半のバイオマス燃料は国産ではなく、輸入に頼っていることが分かります。このため、海外より輸入する際に輸送コストがかかってしまい、原価を押し上げていると考えられます。つまり、輸送費を削減する方法の一つとして、国産のバイオマス燃料を使用することが挙げられます。出典:経済産業省 P64https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryokugas/saiseikano/pdf/0250100.pdf木質バイオマス発電が将来的に普及するかどうかは燃料コストを削減できるかどうか、また安い燃料を安定して得られるかどうかにかかっていると言えます。バイオマス発電で進む環境価値の創出バイオマス燃料を使用して発電すると、化石燃料による発電と比較して二酸化炭素排出が削減できたとみなされ、その分環境価値が創出されます。この環境価値は環境証書という形で取引されており、二酸化炭素排出削減を行いたい企業が購入する例が増えています。日本では2023年に東京証券取引所がカーボン・クレジット取引市場を解説しており、すでに10万トンを越える取引が行われており、今後は増えて行くと見込まれています。この二酸化炭素の排出に価格を付けて排出削減に繋げる政策はカーボンプライシングと呼ばれており、主なカーボンプライシングに炭素税があります。炭素税はすでに導入されていますが、その税額は低くカーボンプライシングの効果はあまりありません。しかし、2028年に炭素賦課税の導入が予定されており、これに伴いカーボンプライシングは活発になると考えられます。この炭素賦課税の本格導入によりクレジット取引も活発化していく見込みです。環境証書とその創出環境証書は環境価値を証書化したもので、非化石証書やグリーン電力証書などがあります。例えば、企業が二酸化炭素排出量1トン分の証書を購入すると、その分を排出していないことになります。つまり、環境証書を購入することでその分二酸化炭素の排出量が下がるため、証書を上手く用いることで排出削減目標を達成しやすくなります。バイオマス発電を行うと、発電量に応じて環境価値が創出されるため、その分環境証書として販売できます。これにより、バイオマス発電は発電した電気を売るだけではなく、環境証書も販売できるため、この利益も加算されます。将来的に炭素賦課税額が上がり、カーボンプライシングが本格化していくとより利益が上がりやすくなるため、バイオマス発電の導入がより進むと考えられます。バイオマス燃料の供給の安定化にはリスク分散が大切バイオマスは再生可能エネルギー源や家畜の飼料など幅広く用いられており、重要な役割を果たしています。一方で、バイオマスはウシの飼料不足やバイオマス発電所の廃業危機などさまざまな課題もあります。これらの課題を克服するためには、輸送コスト削減のため国内調達を増やすか、又は日本に近い東南アジア諸国から購入することで輸送費を下げることが考えられます。また、発電においては、環境価値の創出及び持続可能なエネルギー供給を実現することでカーボンニュートラルの達成をサポートすることが期待されます。