畜産革命の中にある東南アジアとタイの畜産飼料市場の現状とは?アジア諸国では近年畜産業の成長が著しく、畜産革命と呼ばれています。南アジアや東南アジア諸国は将来的に人口が増加すると見込まれている国が多く、人口増加に伴う食糧生産量は増加すると見込まれています。このため、畜産業を支えるソルガムなどの畜産飼料の製造量も増加する必要があります。今回は、畜産革命の真っただ中にある東南アジアのタイに注目し、畜産飼料の栽培と製造、日本への輸出や販売までを解説いたします。タイの畜産業と畜産飼料について解説畜産業は農業や漁業などと共に第一次産業に属していますが、タイではこの第一次産業は縮小傾向にあります。しかし、第一次産業の従事者は多く、人々の生活を支えています。タイは東南アジアの赤道付近にあるため一年を通して温かく、降水量も多いです。このため、植物がよく育ちタイのバンコクを流れるチャオプラヤ川流域の肥沃なデルタ地帯は稲作の一大産地として有名です。食料自給率は100%を越えており、食糧輸出国となっています。これは、熱帯地方という利点を生かして米以外にもトウモロコシやサトウキビ、ソルガムなどの畜産飼料を生産しており、畜産業も盛んであるという理由があります。ソルガムとはモロコシやコーリャンなどとも呼ばれており、畜産飼料として一般的に用いられています。また、平地が多いため農地として使用できる面積が広いこともあり、この地理的な優位性を上手く利用して農業と共に畜産業が発展してきました。 タイの畜産業の特徴タイでは牛や豚といった食肉用の畜産もありますが、近年急速に発展したのが鶏肉です。鶏肉の多くはブロイラーであり、鶏肉は日本に輸出されておりスーパーではブラジル産と並んで安価な鶏肉としてタイ産の鶏肉が見られています。また、鶏肉の他にも鶏肉加工食品の輸入も多く、焼き鳥や鶏のから揚げを始めとして鶏肉を使った冷凍食品などの鶏肉加工品が多く輸入されています。タイの鶏肉及び鶏肉加工食品の輸出量は日本が多くを占めており、タイの主要取引先となっています。以下の表はタイの冷凍鶏肉の輸出先を示した表で、単位は万トンです。タイ全体の鶏肉生産量は年々増加傾向を示しており、全体の鶏肉生産量の内、40%程度が日本に輸出されていることが分かります。他にもマレーシアや中国、香港、韓国など、タイに近い国々へ輸出されています。出展:https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002848.htmlタイの畜産飼料の原料栽培の状況タイは鶏肉を始め畜産業が盛んである理由の一つに豊富な畜産飼料の原料栽培が盛んであることが挙げられます。特にタイでは世界的に見て穀物生産量が多く、特に下のグラフの通り、サトウキビやコメの生産量が非常に多いです。下のグラフは2021年のタイの各穀物生産量を表しており、単位は万トンです。サトウキビは砂糖の原料として使用されていますが、糖分を豊富に含んでいるために含有カロリーが高く家畜飼料として使用されています。出典:https://www.kubota.co.jp/kubotapress/life/kubota-farm.html一昔前では農業と言えば家族経営が多かったですが、近年では機械化が行われており、企業による大量生産が行われるようになっています。これに伴い、穀物の生産量が増加して大量の家畜を育てられるようになっています。この畜産業に加えて、伝統的な米の生産によりタイは食糧輸出国となっています。家畜飼料の製造プロセスとタイの家畜飼料家畜飼料はトウモロコシやソルガムなど穀物の農産物が原料として用いられます。また、家畜が必要とする栄養分は家畜の種類により異なるため、家畜の種類に合わせて飼料を作る必要があります。例えば、牛の飼料には「粗飼料」と「濃厚飼料」の2種類に大きく分かれています。粗飼料は牧草や藁、ススキなどを原料として作らており、主に食物繊維を供給する目的で牛に与えられます。一方の濃厚飼料は炭水化物やたんぱく質を与えるための飼料です。これら二つの飼料は牛の育成に欠かせない栄養素を十分に含んでいる必要があり、飼料の配合や原料によっては牛が育たずに低品質の牛肉となってしまう恐れがあるので、畜産業では非常に重要となっています。家畜飼料はどうやって作る?家畜飼料は飼料となる植物の栽培から始まります。飼料には食物繊維を多く含むものや炭水化物やたんぱく質を多く含むものが選ばれます。これらの植物を栽培し、収穫した後に加工が行われます。もしくは、米や小麦など、収穫後に食用部分を取り分け、残った藁や糠、ふすまなどが飼料として使用されることもあります。そして、原料は洗浄、乾燥され、粉砕や切断、ペレット化などを通して必要なサイズに加工されます。さらに、原料の一部は発酵が行われ、サイレージとなります。この発酵により保存性が高まると共に乳酸など新たに栄養素が作られます。このように、原料が加工されたのち、ビタミンやミネラル分など不足する栄養素を加えて高品質な飼料が出来上がります。 タイの畜産飼料の製造例 近年では自動化が進んでおり、安いコストで大量生産が可能になっています。例えば、タイの飼料製造大手のCPグループでは、飼料製造から家畜飼育、加工までを自社で全て行うインテグレーションシステムを導入しており、ISOを始めとしてGMPなど国際規格に準拠した品質管理システムを採用することで、世界基準の製造工場を建設し、運用しています。国際規格に準拠した方法で製造されるため、畜産飼料の品質は高く、安定した生産が可能になっています。また、CPグループの工場で製造された製品は、全ての工程で記録が取られており、その製品の原材料から飼料まで遡って追跡することが出来るようになっています。このため、トラブルが起こっても原因究明がしやすくなると共に、製品の安全が守られています。家畜飼料の市場動向と成長要因家畜飼料は家畜の育成を左右するため、畜産業にとって重要な要素となります。健全な家畜の育成のためには適切な栄養分を含んだ家畜飼料が欠かせません。さらに、家畜飼料の価格は食肉の原価に直結します。つまり、家畜が成長するまでに食べた飼料の金額が食肉の原価に含まれますので、食肉の原価を安くするには価格の安い家畜飼料の入手が家畜農家にとって大切な仕事になっています。一方で、いかに安くても飼料に十分な栄養が含まれていない場合には家畜の育成が十分でなく、生産できるに気の量が少なくなり品質も悪くなります。このため、栄養価が高く尚且つ価格も安い家畜飼料の入手が家畜農家の経営にとって大切になります。このため、栄養価が高く家畜飼料に適した種が育つ環境と十分な土地、さらには安価な労働力が得られる国々は家畜飼料市場が成長する可能性があると言えます。 タイ国内の畜産飼料の市場動向タイは国土の約4割が農地と言われており、非常に広大な農地面積を誇っています。サトウキビやコメ、ソルガムの生産も盛んであり、収穫されたコメの一部はブロイラーの餌として与えられるなど、豊富な穀物生産量を誇っています。タイの畜産飼料の市場は拡大傾向にあり、この畜産業の発展に伴い畜産飼料市場も将来的にも拡大すると予想されています。日本の企業もタイの畜産飼料市場に着目しており、2018年には大手商社の豊田通商株式会社がタイの大手畜産飼料メーカーであるSPM社と合弁会社を設立するなど結びつきが強まっています。 世界的な畜産飼料の市場動向以下のグラフに世界の穀物需要の推移を示します。グラフでは1999年から2024年までの間で、穀物需要は年々増加していることが分かります。これは世界の人口増加に伴う穀物需要の増加が原因であると推測されます。将来的に世界中の人口は増加していくことが予想されており、2100年頃にピークを迎え、徐々に減少していくことが予想されています。このため、人口増加がピークを迎えるまで穀物生産量は増え続けていくと推測できます。また、人口増加に伴い、食肉の需要も増加しますので、これに伴い畜産飼料用の穀物の需要も年々増加していることが分かります。このため、将来的には人の食料としての穀物生産と共に、家畜生産用の家畜飼料としての穀物生産の両方とも伸びていき、人口がピークを迎える2100年頃まで伸びていくと考えられます。出典:https://www.maff.go.jp/j/wpaper/wmaff/h27/h27h/trend/part1/chap1/c1201_2.htmlスマート農業により生産率向上 タイでも農業の機械化の動きがあり、日本企業による支援も行われています。スマート農業では、トラクターなどの自動運転化やドローンによる育成センシングや農薬散布、さらにAIによるデータ分析などの方面で支援が行われています。タイは農業大国であるため、スマート農業が本格的に導入されることで将来的には生産コストが下がると共に生産性の向上が行われることにより国際競争力が高まると共に、畜産飼料の価格低下や生産量の増加などが起こる可能性があります。また、タイは2029年ごろに人口減少が始まると予想されているため、人口減少による労働力不足に備えるためにも機械化が進められています。日本市場への輸出と販売日本の畜産飼料の輸入相手国はアメリカやオーストラリアなどであり、これらの国からの畜産飼料の輸入量が大半を占めています。豊富な穀物生産量に支えられているタイの畜産飼料の品質は高いですが、日本への輸出は本格的に行われていません。タイからは畜産飼料ではなく、鶏肉や豚肉といった畜産飼料で育てられた食肉が多く輸出されているのが現状ですしかし、タイの畜産飼料の市場は年々増加していることに加え、タイは地理的に日本の近くにあるので、アメリカやオーストラリアなど、遠方の国々から輸入するよりも輸送費が安く、輸送期間も短期間で済むというメリットがあります。このため、日本にとって家畜飼料の輸入先としてタイに優位があると言えます。日本の畜産飼料輸入の現状日本の畜産飼料は主に輸入に頼っています。濃厚飼料の原料となる飼料穀物には主にトウモロコシ、ソルガム、大麦、小麦があります。この中でトウモロコシが飼料として使いやすく、輸入量も多いです。2019年の資料では、日本の飼料穀物の輸入国は以下の表の通り、アメリカ、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジルが多く、この4か国で穀物飼料の大半を占めています。特に、アメリカとオーストラリアの依存率は非常に高く、アメリカからはトウモロコシの71%、小麦の45%、ソルガムの43%を輸入しています。オーストラリアからは大麦の88%、小麦の31%を輸入しています。国名トウモロコシ大麦小麦コーリャンアメリカ71%-45%43%オーストラリア-88%31%-アルゼンチン---57%ブラジル24%---出典:https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/attach/pdf/190419-20.pdf日本にとってタイ産畜産飼料の輸入は良いのか? タイではブロイラーや豚の畜産が盛んであり、これらの畜産飼料を国内製造しています。タイからこの畜産飼料を輸入する際に考えなければならないことは、タイから畜産飼料を輸入して日本で畜産を行うか、タイで畜産を行い食肉を輸入するか、どちらが合理的か、ということです。飼料を輸入して日本で畜産を行う場合には飼料を輸入しなければならず、その分輸送費がかかります。飼料は家畜が食べますので、食肉を生産するのにその何倍の重さの飼料が必要になるので、飼料の輸送は食肉の輸送の何倍も輸送コストがかかることになります。このため、タイの食肉の品質と日本の品質が同等である場合、日本で家畜を育てずにタイから食肉を輸入した方が低コストになる可能性が高いです。一方で、日本で畜産を行った方が肉の品質が良く付加価値が付くのであればタイから飼料を輸入しても利益が出ることになります。このため、和牛など高品質な肉をタイ産の畜産飼料を用いて生産できるのであれば、タイ産の畜産飼料の輸入が検討されます。タイ産の畜産飼料の課題と将来の展望タイは広大な農地を持ち、穀物や飼料作物生産が盛んです。また、国内の畜産業は年々成長しており、ブロイラー及び豚の生産が盛んです。日本のスーパーでもブラジル産と共にタイ産の鶏肉を見かけるようになっており、日本に対する鶏肉の輸出も盛んになっています。このため、将来的にもタイの畜産業は発展すると考えられ、有望な市場となると予想されます。一方で、タイでは家畜の病気が蔓延しているという実態もあり、畜産業に影響を与えています。このため、病気の感染を防ぐための措置が求められており、課題となっています。さらに、気候変動によるリスクも考えられています。気候変動により異常気象が頻発した場合は、洪水など災害に発展します。このため、災害に強い農地を作ることや作物の収量、価格の変動などが起こる恐れもあるため、干ばつや病気に強い品種の採用など持続可能な農業の実践が求められています。まとめタイの畜産飼料産業は、国内外の需要に応じて急速に成長しています。この産業は、地域経済の発展や雇用創出に大きく貢献しており、持続可能な成長に向けた取り組みも進んでいます。日本もタイから食肉を多く輸入しており、日本とのつながりも強化されつつあります。今後も畜産業の発展に伴い、畜産飼料産業も発展していくと考えられます。