ペレットストーブはお洒落なインテリアやキャンプ用品としてだけでなく、脱炭素を目的に推進されてきた。自治体によっては補助金も拠出されており、安価な防寒対策としての期待も高まる。本稿では脱炭素的な意義や価格に焦点を当て、ペレットストーブを紹介する。ペレットストーブの特徴ペレットストーブとは燃料に木質ペレットを用いる暖房器具を指す。キャンプ用に携帯できるもの、電動で着火できるもの、ペレットを自動で追加してくれるものなど、その種類も様々だ。屋内で使用する種類のものであれば、使い方は強制吸排気式(FF式)の灯油ストーブとほとんど変わりない。吸排気口で屋外と接続し、外気を取り入れ燃焼時に生じたガスを屋外に排気する。灯油ストーブは液体である灯油を手動ポンプなどで補給するが、ペレットストーブは固体である木質ペレットを燃料とし、補給も容易だ。また、ペレットストーブは薪ストーブと同様、実際に燃焼する炎を見て楽しむことができる。一方で、薪ストーブのような煤(すす)はほとんど出ず、扱いやすい。掃除など、メンテナンスの手間は灯油ストーブと薪ストーブの中間程度になるだろう。木質ペレットストーブの使い方や使用時の注意点に関しては環境省がガイドブックを作成している。参照:https://www.env.go.jp/content/900399532.pdf)木質ペレット木質ペレットは木材を乾燥させて均等なサイズに押し固め、燃焼しやすいように加工したものだ。全国のホームセンターやインターネット通販で購入できる。加工していない生木(薪)を燃焼した際に煤が生じる主な原因は熱分解過程で酸素が不足し、不完全燃焼が起きるためと言われている。他方、木質ペレットは小さな形状に加工しているため全体に酸素が行き渡りやすく、不完全燃焼が生じにくい。木質ペレットは伐採した木材や木造建築の廃材などを利用して作られるが、近年では非常に成長が速い草を利用した草本ペレットの生産も行われている。株式会社TAKANOは栃木県さくら市や農研機構と協力し、品種改良したエリアンサス(亜熱帯・熱帯に自生するススキの一種で背丈は3mほどになる)の栽培・加工を事業化した。このようなエネルギー用途での農作物栽培に関する取り組みは「(リンク:エネルギー作物)」の記事で取り扱っているので、詳しくはそちらも参照頂きたい。木質ペレットは含有される樹皮の量に応じて、燃焼時に排出される煤の量や燃焼時間が変化する。樹皮を含まない木部ペレット(ホワイトペレット)の方がストーブの手入れは楽だ。木質ペレットは猫砂用途のものはよく売られているが、燃料用のものはホームセンターが取り扱っていないことも多い。筆者の最寄りのホームセンターにも販売していなかったが、そうした場合にはインターネット通販で燃料用ペレットを購入できる。木質ペレットの品質や値段は製造業者によって様々であり、輸送費を考慮すれば地元の工場で生産されたものが最も安く購入できるため、一概に製品をおすすめできない。居住地の近くで製造業者を見つけることが最も効果的な入手方法となる。木質ペレットの国内製造業者は増加傾向にあり、そうした状況で品質を担保するため、日本木質ペレット協会が一定の基準を満たす業者に認証を発行している。ペレット選びの際に参考にして頂きたい。参照:https://w-pellet.org/store/pellet/ペレットストーブによる脱炭素効果ペレットストーブの燃料である木質ペレットは、森林の成長とバランスのとれた利用をする限り、持続可能な資源だ。燃焼により発生した二酸化炭素は樹木の成長により大気から再度樹木へ吸収されるため、カーボンニュートラルと言える。灯油ストーブを全てペレットストーブで置き換えれば、燃焼時に排出されるGHG(温室効果ガス)を実質ゼロにできる。参照:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/gel/ghg-guideline/search/pdf/01_21.pdfただし、ここでは森林管理や木材運搬の際に生じるGHGを考慮していないことに注意が必要だ。重量当たりの発熱量で比較すれば灯油と木質ペレットには3倍程度の違いがある。つまり、ペレットストーブで灯油ストーブと同じ熱量を生み出すためには、単純計算でトラックの走行距離が3倍になり、運送の際により多くのGHGを排出することになる。もちろん、木質ペレットは国内での製造もされているため、石油とは輸送距離自体が異なり、単純な比較はできないことに注意が必要だ。また、ペレットへの加工工程などを考慮すれば消費するまでのGHGはさらに多くなるだろう。日本木質バイオマスエネルギー協会の試算によれば、ヤナギを栽培・収穫、粉砕加工して、バイオマス発電を行う場合、燃焼時のGHG排出量はGHG排出全体の約4割程度であり、燃焼時以外にも多くのGHGが排出されていることが分かる。参照:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoeneshinene/shinenergy/biomasssuswg/pdf/0120300.pdf排出されるGHGを減らすためには加工プロセスの更なる効率化や、木材の地産地消により輸送で排出されるGHGを少なく抑えることが重要だ。ペレットストーブで脱炭素に貢献したいと考えているならば、輸入木材よりも地元で採れた木材によるペレットの方がGHG排出量を低減できることを覚えておこう。ペレットストーブ運用のコスト一消費者の立場に立ってペレットストーブの導入を検討するならば、特に重要となるのはその価格だろう。環境省の試算によれば(※)、同じ熱量を生産するために必要な金銭的コストは木質ペレットが灯油より16%少ない。ただし、この値段は年間の燃料費を比較したものであり、ストーブの価格自体は含まれていないことに注意して頂きたい。また、灯油や木材の価格は変動しやすく、試算の時期によって結果も異なることも付記しておく(環境省による試算は2023年頃のもの)。参照:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/gel/ghg-guideline/search/pdf/01_21.pdf燃料費に関して、灯油の値段は年々上昇しているが、2021年のコロナ禍以降、住宅用木材需要も高まり、世界的に木材価格も高騰した(ウッドショック)。林野庁の調査によれば、現在は木材価格高騰のピークは過ぎ、国内の木材価格は減少に転じている。参照:https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r4hakusyoh/all/chap31_3.html北海道や東北地方では冬季にエアコンの室外機が雪で覆われて使えなくなるため、灯油ストーブを利用する場合が多い。それ以外の地域であれば夏冬を兼ねるエアコンの利便性が勝る。とはいえ、屋内に十分なスペースがあり、揺らめく炎を見てリラックスしたいと思うならば、ペレットストーブも十分あり得る選択肢だ。ペレットストーブを生産しているメーカーは未だ少ないため本体価格は灯油ストーブが圧倒的に安いが、燃料価格の差によって、10年単位の長期的な視点に立てばペレットストーブも価格面で優位に立てる。ペレットの推進自治体ペレットストーブは国や自治体も推進しており、住んでいる地域によってはペレットストーブの購入や設置に対して自治体から補助金が出される。薪・ペレットストーブ補助金・助成金交付自治体リストを掲載しているサイトもあるので、購入の前にご自身の居住地域の施策を確認していただきたい。リンク先のサイトにも記載されていない場合はあり得るので、ご自身で自治体の補助金を確認していただければ確実だろう。参照:https://greenhood.jp/municipalitylist.html例えば、北海道札幌市では「再エネ省エネ機器導入補助金制度」が存在する(※)。太陽光発電、定置用蓄電池、エネファーム(家庭用燃料電池)、地中熱ヒートポンプと並んで、ペレットストーブも補助金の対象機器だ。10万円以上のFF式ペレットストーブを設置したことを証明し、書類を提出すれば、1台あたり5万円の補助金を受け取れる。ただし、札幌市の場合、中古で購入したペレットストーブは補助金の対象外となっている。参照:https://www.city.sapporo.jp/kankyo/energy/hojo/kiki.html屋内用ペレットストーブの紹介以下では、一般消費者向けに販売されている屋内用のペレットストーブを幾つか紹介していく。TOYOTOMI:PE-8NTOYOTOMI社は1949年に創業し、1952年には当時まだ珍しかった石油ストーブの生産を始め、拡大していった。現在は石油ストーブ、電気ストーブ、ペレットストーブを生産している。TOYOTOMI社の PE-8N(※)は「炎」にフォーカスしたデザインで、2023年のグッドデザイン賞を受賞した(※)。一枚の板金から作られた前面の扉は炎のオレンジ色を強調し、美しさを引き立てる。ペレットストーブの魅力として「炎の美しさ」を前面に押し出すことで他の暖房器具と差別化を図った。「ペレットストーブの何が良いの?」と人に聞かれたとき、「炎の美しさだ」とシンプルな返答ができるため、他の人にも薦めやすい。重量は72kgと小型で、燃料タンク容量は10kg、対象とする部屋の大きさは13畳程度、メーカー希望小売価格は440,000円(税込)となっている。warmArts:RS-4warmArts社は「日本の森を守りたい」という企業理念の下、エネルギーの地産地消を進める。国内の様々な植生を考慮し、様々な種類の木質ペレットに対応できるようシンプルな設計にこだわってきた。warmArts社のRS-4(※)は燃料炉と燃料タンクの位置を物理的に離したセパレート構造で、ストーブ全体の温度が上がっていくタイプ。小さいながら燃焼効率が良く、20畳程度の部屋を温めることができる。着火は電動ではなく手動なので起動時の電力消費は少ない。燃料タンク容量は12kg、メーカー希望小売価格は385,000円(税込)となっている。EDILKAMIN:CHERIE 11 EVOEDILKAMINは1963年に創業したイタリアの暖房機器メーカー(※)。薪を使う暖炉から始まり、時代のニーズに合わせて最先端の暖房器具を提供してきた。日本では北越融雪株式会社などを通じて販売・取り付けを行っている。同社のCHERIE 11 EVO(※)は燃焼最適化システム「レオナルド」を搭載する。高度なセンシングシステムで排気管の接続状態や設置環境、ペレット燃料の種類などを的確に捉え、ストーブの動作をパラメータ調整により最適にコントロールすることが可能だ。重量230kgと大型で、背面に2つ備えられた温風吹出口からダクトを延長することで合計3つの部屋を暖房することができる。価格は987,800円(税込)。