ソルガムは、世界の五大穀物の1つとして、古くから各国で親しまれてきた穀物です。栄養素が豊富で、アレルゲンフリーである点から、近年ではスーパーフードとして注目されています。この記事では、ソルガムとはどんな植物なのかはもちろん、スーパーフードとされる理由や、多様な可能性、国内の活用事例について、解説します。ソルガムに関心のある方は、ぜひご一読ください。ソルガムって?ソルガムは、アフリカ原産のイネ科モロコシ属の穀物です。世界の五大穀物の1つで、世界各地で伝統的に食されてきました。日本には室町時代(14世紀)に「高梁(コウリャン)」として、中国から伝来したといわれています。日本では別名「たかきび」や「あまきび」、「ソルガムきび」と呼ばれており、一説では昔話『ももたろう』に出てくる、きびだんごの材料ではないかともいわれています。米国では食べやすいように品種改良された「ホワイトソルガム(白高きび)」が、とうもろこし、大豆、小麦に続く重要な農作物に位置づけられており、注目の高さが窺えます。ソルガムがスーパーフードとして注目される3つの理由ソルガムは今、スーパーフードとして注目されています。ここでは、なぜソルガムがスーパーフードだといわれているのか、主な理由を紹介します。理由1:アレルゲン(グルテン)フリー1つ目は、ソルガムがアレルゲンフリー、グルテンフリーな食材だからです。ソルガムは、食品表示法で定められている28品目のアレルゲン物質を含んでおらず、同じ穀物である小麦やお米アレルギーの方でも、アレルギーを気にせずに食べられます。さらに、ソルガムはグルテンフリーでもあります。セリアック病やグルテン不耐症の方でも、安心して食べられる食材です。理由2:栄養素が豊富2つ目は、ソルガムは栄養素が豊富な食材だからです。ソルガムには、たんぱく質や食物繊維などの栄養素が、豊富に含まれています。例えば以下の表は、アメリカで食用として一般的に流通している「ホワイトソルガム」の栄養成分を、白米や玄米と比較した表です。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」下記グラフから分かるように、マグネシウムや鉄分などの、不足しがちな栄養素も、玄米より多く含まれています。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」さらに、健康効果の高いGABAやポリフェノール、食物繊維と同様の働きをする、難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)も含まれており、ダイエット効果も期待できます。理由3:食べやすく汎用性が高い3つ目は、ソルガムは食べやすく、汎用性の高い食材だからです。ソルガム(きび)は、昔話にも登場するほど、日本でも「雑穀」として馴染みがある食材です。種類にもよりますが、基本的にはクセのない味と食感なので食べやすいでしょう。さらに、料理にも使いやすく、汎用性の高さが魅力です。ソルガムの全粒や精白粒は、雑穀として米や麺に混ぜるのはもちろん、スムージーやスープ、サラダなど、さまざまな料理に活用できます。浸水時間を長くとると弾力が出るので、挽き肉の代わりにも使えます。コロッケやハンバーグなど、カロリーの高い料理でも、ヘルシーに仕上がります。製粉したソルガムは、小麦粉と性質が近く、パンや焼き菓子などの材料として活躍します。米粉との相性もよいため、ブレンドするとおいしい米粉パンも作れますよ。ソルガムには多様な可能性があるここまで、ソルガムの食品としての魅力をお伝えしてきました。しかし、ソルガムが注目されているのは、「食品として価値が高いから」というわけではありません。ここからは、ソルガムが持つ、さまざまな可能性について、解説していきます。手間が少なく育てやすいソルガムは、作物として育てるのに、他の穀物を育てるよりも省力化が可能です。それは、ソルガムに、以下2つの特徴があるからです。高温や乾燥に強い 雨量が少なく、作物を育てるのが難しい土地でも栽培しやすい丈夫で害虫や病気にも強い農薬の使用が少なくて済むこのような特徴から、同じ穀物である米や麦などと比べ、育てる手間が少ないといえます。そのため、人手不足などが原因で、長年手を付けられずに農地が放置される「耕作放棄地」や被災農地の解消にも、一役買うのではないかと期待されています。茎葉も資材として使える「2.ソルガムがスーパーフードとして注目される3つの理由」で紹介したように、食品として使われるのはソルガムの子実ですが、茎葉も資材として活用できます。ソルガムは約2mまで大きく成長する植物で、茎葉にも利用価値があります。例えば「光洋産業株式会社」では、環境活動の一環として、木材の代替として使える「高粱ボード」を開発、製品化して、現在も実用化に取り組んでいます。出典:Kirei高粱ボードの主な用途は、薄畳の芯材や店舗用の内装材などで、特に内装材としては、アメリカで「KIREI BOARD」として、広く販売されています。また、2010年に長野県主導で「きのこと家畜を育てるソルガムプロジェクト推進事業」が行われてからは、きのこ栽培の培地資材としても、広く利用されています。ソルガムはバイオエネルギーを生み出せる最近では、ソルガムはバイオマス活用できるという点でも、大きく注目を集めています。バイオマスとは、化石資源を使わない、再生可能な生物由来の有機性資源のことです。ソルガムのバイオマス活用には、主に以下の2パターンの方法があります。メタン発酵した茎葉から得られるバイオガスを利活用ソルガムの茎葉や、きのこ栽培の廃培地をメタン発酵させ、そこから得られるバイオガスを、電気や熱エネルギーとして利活用する方法です。残った消化液は、液体肥料として再活用されます。火力発電においてバイオマス燃料として活用現在石炭を主な燃料としている火力発電において、ソルガムから作ったブラックペレットを、バイオマス燃料として使う方法です。ソルガムのペレットは、石炭と同じように扱うことができるため、発電のコスト削減はもちろん、CO2排出量の低減も期待できます。各自治体のソルガム活用事例を3つ紹介最後に、国内の自治体による、ソルガムの活用事例を3つ紹介します。事例1:長野県長野県では、国内でも早い時期から、ソルガムに着目した取り組みが行われてきました。2008年には、松本市にある信州大学において、ソルガムの研究が始まっています。当初は、「バイオマス利用を行う資源作物」として、ソルガムが研究対象に選ばれました。前述した通り、その後2010年には、長野県主導で「きのこと家畜を育てるソルガムプロジェクト推進事業」という実証実験も行われています。さらに2013年には、長野市と信州大学が共同で、「耕作放棄地の活用についての調査研究事業」を始め、ソルガムの栽培や商品化といった活動が、活発化しました。2017年には、子実の商品化はもちろん、流通環境の整備も進められ、2020年には学校給食の食材として、ソルガムの子実が本格的に導入されています。2021年には信州大学を中心に「信州そるがむで地域を元気にする会」が発足され、2024年現在に至るまで、ソルガムの活用や普及活動といった取り組みが精力的に行われています。参考: ソルガム成果報告.pdf事例2:岩手県岩手県は、古くから乳用牛や肉用牛などの大家畜生産が活発で、農業産畜額のおよそ半分を、畜産が占めるような状況にありました。岩手県では畜産の基盤となる飼料作物の栽培も盛んで、牧草や青刈りとうもろこしといった作物では、全国有数の作付け面積を誇ります。そんな中、生産性の向上と、さらなる有効活用を目指して着目されたのが、ソルガムでした。岩手県では、長野県よりも早い1990年頃から、ソルガムの研究や栽培試験が始まっています。その結果、岩手県は、全国に先駆ける形でソルガムの栽培が盛んな土地となり、現在では国内におけるソルガムの主産地となっています。事例3:宮崎県宮崎県では、施設園芸や畜産を中心に、収益性の高い農畜産業を展開しています。しかし近年、農家戸数や農業従事者の減少、高齢化などの影響により、生産力の低下や、耕作放棄地などの問題に悩まされていました。そこで、2023年に新たな取り組みとして始まったのが、官民連携による、農業資源の地域循環型モデル構築です。宮崎県は、総合商社の「株式会社 双日」と「農業資源を活用した資源循環事業に関する連携協定書」を締結し、活動の一環として、ソルガムの試験生産を始めました。出典:双日株式会社「双日、宮崎県と農業資源を活用した資源循環事業に関する連携協定書を締結」上の図にあるように、ソルガムを家畜用飼料やバイオマス燃料に加工し、需要家に届けるという、資源循環に向けた実証に取り組んでいます。まとめソルガムはアフリカ原産のイネ科モロコシ属の穀物で、世界各国で伝統的に食されてきた歴史を持ちます。近年では、アレルゲン(グルテン)フリーで栄養豊富、汎用性が高いことから、スーパーフードとして、注目を集めています。さらに、丈夫で栽培しやすいことや、茎葉も資源となり、バイオマス活用もできるなど、現代のさまざまな問題を解決する糸口としても、期待が高まっています。今回の記事では、県を挙げてソルガム活用に取り組んでいる長野県をはじめ、ソルガム主産地である岩手県や、官民連携のモデル構築を目指す、宮崎県での事例も紹介しました。知名度の低さが課題のソルガムですが、食物としてはもちろん、資源やエネルギーとしてもあらゆる可能性を持つことから、今後のさらなる活用が望まれています。