脱炭素を推進するバイオマ燃料として有望視されている穀物「ソルガム」は、コストがかからないため、将来的に安価な燃料としても期待の高い素材です。今回はバイオマス燃料として、多様な可能性を秘めた穀物「ソルガム」について、特徴や可能性、さらにメリットや燃料価格の動向まで詳しく解説します。バイオマス燃料としての「ソルガム」の知見を深めたい方は、ぜひご一読ください。ソルガムとはソルガムとは南アフリカ原産のイネ科の穀物で、世界5大穀物のひとつです。ソルガムは穀物の中でも栽培管理がしやすく、かつ生育が早く再生性や生産量が高いという特徴があります。そのため食用や家畜の飼料だけではなく、近年はバイオマス燃料としての注目も高まっています。ソルガムの特徴ソルガムには、さまざまな特徴がありますが、代表的なものを以下にご紹介しましょう。品種も豊富で乾物生産性に優れているグルテンフリーで栄養価が高い高温や乾燥に強い 線虫対抗作物としてやドリフトガード作物としても利用可能トウモロコシ以上の生産性があるため、労働力とコストを低減可能茎葉も資材として使える再生草を利用することで1度の播種で2回以上収穫が可能肉用牛をはじめとする家畜の飼料としても有望バイオマス燃料として活用可能バイオマス燃料としてのソルガムの特徴とメリットソルガムは、石炭と混焼が可能なバイオマス発電燃料用植物として有望視されており、さまざまな実証実験が行われています。ここではバイオマス燃料としてのソルガムの特徴とメリットをご紹介します。ソルガムの特徴ソルガムは生育が早いため、カスケード(段階)的な利用が可能ソルガムは、日本国内でも3ヶ月ほどで大きく成育するため、効率よく利用することができます。二期作栽培を行えるため、カスケード的(段階的)にバイオマス燃料として利用可能です。高い環境適応能力を有し、厳しい耕作環境下でも生育が期待できるソルガムは、痩せた土地や干ばつになどに強く、厳しい耕作環境下でも生育が見込めます。そのため、バイオマス発電燃料の安定供給に貢献する原料のひとつとして、期待の高い素材です。バイオマス燃料のなかでもCO2 吸収量・貯蓄量が高いソルガムはCO2 吸収量・貯蓄量が、ほかのバイオマス燃料と比較しても、数倍高いといわれているため、CO2排出量削減効果を期待できます。メリット半炭化したソルガムの木質ペレットは、耐水性・粉砕性などに優れ、石炭と同様に取り扱うことが可能。石炭火力発電におけるCO2排出量を低減。ソルガムから最終的に固形形態となったバイオマス燃料を混焼させることで温室効果ガスの削減を促進。クリーンエネルギーとしての期待が高い。炭素貯留効果が高く、カーボンニュートラルの促進にもつながる。脱炭素を推進するバイオマス燃料とは?バイオマス燃料とは、動植物を由来とした有機性資源を原料として得られるエネルギーです。温室効果ガスの排出が少なく、クリーンな再生可能エネルギーの1つとして注目されており、電気やガス、輸送用燃料など幅広い用途があります。バイオマス燃料「ソルガム発電」バイオマス発電では従来、廃材や間伐材のチップなどを燃料源として使用してきました。しかし化石燃料と比べると、高価で持続的に大量供給するのが困難だったり、熱量が低く効率的ではなかったりという課題がありました。生育が早生なソルガムは品種改良により、120日で6メートルまで伸びる品種もあり、年間に何度も栽培が可能です。適した品種を栽培地に合わせて選べば、1ヘクタール当たり年間200トンを超える収穫が可能といわれています。そのため「ソルガム発電」は、持続的なバイオマス燃料として非常に有望と考えられています。バイオマスエネルギーの動向2022年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は、CO2に換算して約10億8,500万トンで、2021年度と比較して2.3%の減少でした。2023年度「バイオマス・廃棄物による発電利用および熱利用の導入実績調査」の報告書によると、2021年度のバイオマスの発電量は29,789.9GWh、熱利用量は83,660.1TJで、化石廃棄物の発電量は6,315.0GWh、熱利用量55,116.8TJでした。出典:令和4年木質バイオマスエネルギー利用動向調査より、バイオマス産業社会ネットワーク作成環境エネルギー政策研究所は、2023年の自然エネルギー電力の割合は25.7%で前年の22.7%から3ポイント上昇したと推計しており、そのうちバイオマス発電の割合は5.7%でした。矢野経済研究所の調査では、日本国内のバイオマスエネルギー市場規模は2035年には1兆7215億円に増加すると予測しています。これらの動向を踏まえると、バイオマスエネルギーのなかでも、今後コストの低減が期待できる「ソルガム発電」の需要は拡大していくことが予想されます。海外の政策動向諸外国ではバイオマスエネルギーに関する支援を積極的に実施しています。「自然エネルギー世界白書2024」によると、2023年に増加した世界の自然エネルギー発電設備容量は、473GWで過去最大となりました。そのなかで、バイオマス発電は4.4GWの増加となっています。欧州委員会はEUのバイオマスエネルギーに関する報告書を公表し、2021年の再生可能エネルギー消費量全体の約59%をバイオマスエネルギーが占めたと報告しています。出典:バイオマス白書2024 国際的な動向(バイオマス産業社会ネットワーク)日本の政策動向2024年5月、G7気候・エネルギー環境相会合は、2030年から2035年までに石炭火力発電の段階的廃止を明記する閣僚声明を採択しています。また資源エネルギー庁とNEDOは、非化石エネルギー転換技術の研究開発や普及を促進するため、重要な技術分野を具体的に示した「省エネルギー・非化石エネルギー転換技術2024」を策定しました。政府はバイオ戦略を改定した「バイオエコノミー戦略」において、バイオマス関連の市場規模を現在の約60兆円から2030年に100兆円にする目標を立てています。そのため今後国内でのバイオマス燃料の開発は、ますます向上していく可能性があります。出典:バイオマス白書2024 国内の動向(バイオマス産業社会ネットワーク)ソルガム発電の燃料価格は?ソルガム燃料の価格は、1トンあたり150ドルの石炭と同じになると想定した場合、1KWhあたりで7.5円程度になると考えられています。家畜の飼料用に利用される食用ソルガムと比較して、バイオマス燃料として想定されるソルガムは、収穫量が2倍以上になるよう品種改良されています。大量栽培することでコストを引き下げ、燃料の調達価格を3~4割安くできる可能性が高く、安価なバイオマス燃料として有望視されています。新規燃料候補の燃料費ここではほかの新規燃料の価格を参考に見てみましょう。2022年度、バイオマス発電事業者協会から要望のあった新規燃料の燃料価格は以下になります。※ GJ(ギガ・ジュール)とは、エネルギー量の単位で、1ジュール≒0.239カロリーです。種類燃料価格EFB(パームヤシ果実房)1,244円/GJココナッツ殻1,072円/GJくるみ殻1,118円/GJアーモンド殻1,297円/GJピスタチオ殻1,383円/GJひまわり種殻1,588円/GJコーンストローペレット1,097円/GJ籾殻1,692円/GJサトウキビ茎葉1,625円/GJピーナッツ殻2,197円/GJベンコワン(葛芋)種子817円/GJ出典:バイオマス発電について(新規燃料の取扱い)2022年(資源エネルギー庁)ソルガム燃料の事例やプロジェクト紹介ここからはソルガム燃料を活用した企業事例やさまざまなプロジェクトをご紹介します。国内バイオマス燃料の安価かつ安定的な調達が難しくなっているなかで企業や研究機関によるさまざまはプロジェクトや開発が行われています。中部電力中部電力では、高収率(二回刈り)栽培が可能なソルガムを栽培し、カスケード的(段階的)に利用しながらバイオマス燃料を得る取り組みを行っています。未利用分や残渣などの有価以外の部分をカスケード的(段階的)にバイオマス燃料として利用し、ソルガム栽培の高収益事業を目指します。さらに耕作放棄地ソルガムの栽培地として有効活用していく計画です。出典:資源循環植物ソルガムとそのカスケード利用(中部電力)イーレックス株式会社電力小売り大手イーレックスはベトナム国においてバイオマス燃料としてイネ科の植物「ソルガム」の商業栽培に着手しています。2024年度には収穫量を年30万トンまで増やす計画で、発電量に換算すると、一般家庭3万5000世帯分の年間電力をまかなえる計算です。木材からつくる燃料よりコストを抑え、低炭素電源の原価低減につなげることが可能です。出典:イーレックス、バイオマス発電燃料をベトナムで量産(日本経済新聞)出光興産・東京大学・日本郵船共同プロジェクト出光興産株式会社と日本郵船株式会社、東京大学大学院農学生命科学研究科では、バイオマス燃料としてのソルガムに着目し、共同して実証実験を行っています。出光興産が所有する豪州クイーンズランド州の土地で、石炭と混焼可能なバイオマス発電燃料用植物ソルガムの栽培試験に関する研究を開始。過去出光興産が同地で実施したソルガム栽培および、燃料化に関する試験では順調な生育が確認され、燃料化に有用であることを確認しています。この共同研究では、事前に選定したソルガム17品種の栽培試験を実施し、発電燃料として適した品種の選抜を行い、効果的な栽培方法の確立を目指しています。出典:バイオマス発電用植物「ソルガム」の栽培に関する共同研究を開始(日本郵船)まとめバイオマス燃料としてのソルガムの可能性やメリット、従来の燃料価格との比較を解説しました。ソルガムのさまざまな可能性を考慮すると、ソルガム発電の燃料価格は将来的に石油と同じくらいに、安価に調達できる可能性が高いといえるでしょう。バイオマス市場の拡大とともに、今後ソルガム発電の需要の向上が大いに期待されます。