ソルガムはサステナブルな作物です。今回は、ソルガムの「持続可能性の高さ」が、どんな社会問題を解決しうるかにスポットを当てました。ソルガムに興味のある方にとって、必読の内容となっています。ぜひご一読ください。1.ソルガムの持続可能性が高い4つの理由ソルガムは、アフリカ原産、イネ科モロコシ属の穀物です。世界の五大穀物の1つでもあり、世界各地で伝統的に食されてきました。一方で、ソルガムは、サステナブル(持続性可能性が高い)という一面も持ちます。その理由として、以下に挙げる以下4つの特徴があります。さまざまな活用方法がある栽培管理しやすい生産性が高いバイオマス活用できるここからは、ソルガムのこれら4つの特徴について、1つずつ解説していきます。1-1.さまざまな活用方法があるソルガムの活用方法は、以下に挙げる通り、多岐に渡ります。人の食用家畜の飼料資材ソルガムは栄養価の高い穀物で、さまざまな栄養素が、豊富に含まれています。例えば以下の表は、アメリカで食用として一般的に流通している「ホワイトソルガム」の栄養成分を、白米や玄米と比較した表です。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」マグネシウムや鉄分など、不足しがちな栄養素も、玄米より多く含まれており、アメリカなどの国では「スーパーフード」として人気の高い食材です。栄養素の高さは、牛や羊、ヤギなどの家畜にとっても大きなメリットとなります。ソルガムは、高タンパク質でビタミンとミネラルが豊富、消化吸収に優れる点で、飼料としても優秀です。ソルガムで活用できるのは、子実だけではありません。太く長い茎葉は、木材の代替や内装材、きのこ栽培の培地資材などとして活用されています。出典:Kirei「Acoustic Solutions」内装材としては、アメリカで「KIREI BOARD」として、広く販売されています。参考:光洋産業株式会社「高粱への取り組み」1-2.栽培管理しやすいソルガムはほかの穀物よりも、栽培管理がしやすい作物です。それは、ソルガムに、以下4つの特徴があるからです。高温や乾燥に強い ⇒ 雨量が少なく、作物を育てるのが難しい土地でも栽培できる丈夫で害虫や病気にも強い⇒ 農薬の使用が少なくて済む獣害に遭いにくい⇒ 獣害の対策が必要ない耐倒伏性に優れる⇒ 台風に強く、作付けの時期が限定されないこのような特徴から、同じ穀物である米や麦などと比べ、育てる手間が少ないといえます。1-3.生産性が高いソルガムは再生力の高さから、生産性が高いことに定評があります。ソルガムは再生草を利用することで、1度の種まきで 2回以上の収穫が可能です。特に再生力が高いスーダングラスなどの品種では、早い時期に種まきをして、穂が出る前など、早いタイミングで収穫することで、年に3回収穫できる場合もあります。実際に、西日本では2回刈りなどの多回利用が一般的です。1-4.バイオマス活用できるソルガムは、バイオマス活用できる点でも注目を集めています。バイオマスとは、化石資源を使わない、再生可能な生物由来の有機性資源のことです。ソルガムのバイオマス活用には、主に以下の2パターンの方法があります。メタン発酵した茎葉から得られるバイオガスを利活用するソルガムの茎葉などをメタン発酵させ、そこから得られるバイオガスを、電気や熱エネルギーとして利活用する方法です。火力発電においてバイオマス燃料として使う石炭を主な燃料としている火力発電で、ソルガムから作ったブラックペレットを、バイオマス燃料として使う方法です。ソルガムのペレットは、石炭と同じように扱えるため、発電のコスト削減だけでなく、CO2排出量の低減も期待できます。2.ソルガムの活用で解決できる3つの社会問題ソルガムの持続可能性が高い理由が分かったところで、次は、ソルガムの活用で解決できる、日本の社会問題を見ていきましょう。今回紹介するのは、以下3つの問題です。農業の労働力不足休耕田や耕作放棄地の増加土壌の汚染や塩害2-1.農業の労働力不足日本で農業に従事する人の数は年々減り続けており、従事者の平均年齢は上がっています。出典:農林水産省「農業の労働力確保について」社会全体を見ても、少子高齢化などの原因により、さまざまな業界で人材不足の傾向が見られますが、それは農業でも例外ではありません。令和元年に国が行った「農の雇用事業に関するアンケート 」の結果からも、人手不足の実態が分かります。以下の円グラフにある通り、雇用就農者の確保について、「より難しくなってきている」と答えた雇用主が、半数近くいました。出典:農林水産省「農の雇用事業に関するアンケート調査結果概要」人材確保のため、国や自治体、法人などは、さまざまな解決策を打ち出しています。2-2.耕作放棄地の増加農業に従事する人の高齢化や人材不足に伴って増えているのが、耕作放棄地です。「農林業センサス」では、耕作放棄地は、以下のように定義されています。▼耕作放棄地とは▼以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地以下のグラフを見ても、耕作放棄地は増加傾向にあり、一方の耕作面積は減少傾向にあることが分かります。出典:環境省「平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」p.17耕作放棄地は、長く放置されることで、以下のような状況に陥ります。土壌の質の悪化雑草や害虫の発生鳥獣による被害こういった状況は、近隣の農地や、住民にも悪影響を及ぼすリスクがあります。不法投棄が増えたり、本来の農地が持つ防災機能が失われることも、周辺の環境や住民にとってのリスクにほかなりません。耕作放棄地の増加は、地域全体に与える影響も大きいのです。2-3.土壌の汚染や塩害土壌汚染とは、人間にとって有害な物質で、土壌が汚染された状態を指します。土壌汚染の原因には、製造工場などで、原料となる有害物質の取り扱いが不適切で、有害物質を含む液体などが、その地盤に浸み込んでしまったことなどが考えられます。出典:環境省「土壌汚染とは?」一方で、人間の活動とは関係のない、自然由来の土壌汚染の事例も存在します。土壌汚染が初めて大きな社会問題となったのは農用地の汚染で、1970年には「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」が制定されています。農用地が汚染された場合、そこで育てられた作物を人が食べると、その人の健康に、重篤な影響が及ぶ危険性があります。近年でいうと、2011年3月の東日本大震災に伴って起きた福島第一原子力発電所の事故も、農用地の土壌汚染の原因となりました。原発事故により、大量に放出された放射性セシウムによる土壌汚染です。大規模な事故だったため、事故から10年以上が経過した現在も、除染作業が続けられています。ここからは、ここまで挙げてきた社会問題を、ソルガムがどうやって解決するのか、その理由をくわしく解説していきます。3.【ソルガムによる問題解決その1】労働力・コスト削減の実現ソルガムの活用は、前述した「2-1.農業の労働力不足」の解決策となりえます。なぜなら、ソルガムは、栽培管理しやすく、生産性の高い作物だからです。まずは「1-2.栽培管理しやすい」で挙げた内容をおさらいしてみましょう。ソルガムには以下4つの特徴から、同じ穀物である米や麦などと比べ、育てる手間が少なくて済みます。高温や乾燥に強い ⇒雨量が少なく、作物を育てるのが難しい土地でも栽培できる丈夫で害虫や病気にも強い⇒農薬の使用が少なくて済む獣害に遭いにくい⇒獣害の対策が必要ない耐倒伏性に優れる⇒台風に強く、作付けの時期が限定されない土地や時期を細かく限定せずに作付けできるので、本来なら穀物の育成が難しい地域や土地、時期であっても問題なく、人手のある時期を選んで作付けに取り組めます。水やりや除草といった日々の作業も最低限でいいので、日常的な手間も増えません。さらには、丈夫で害虫や病気に強いので、害虫対策や農薬散布の手間も最小限に抑えられます。獣害にも遭いにくいので、対策にかかる時間や手間、労力が削減できます。一方で、ソルガムには「1-3.生産性が高い」という特徴もあります。ソルガムは再生草を利用することで、1度の種まきで 2回以上の収穫ができます。再生力が高い品種を選ぶことで、年3回の収穫も視野に入れられます。ソルガムの生産性の高さもまた、労働力や、コストの削減に大きく貢献するでしょう。4.【ソルガムによる問題解決その2】耕作放棄地の活用ソルガムは、「2-2.耕作放棄地の増加」という問題の解決策ともなります。前述した通り、耕作放棄地とは、過去1年以上作物を作付け(栽培)しておらず、この先もその予定のない土地をいいます。耕作放棄地は、長く放っておかれるために、以下のような状況に陥っている場合が多く、そこから土地を農地に再生させるのは、容易なことではありません。土壌の質の悪化雑草や害虫の発生鳥獣による被害しかし、栽培管理がしやすく、生産性の高いソルガムであれば、これらの問題を解決しやすいと考えられます。ソルガムの以下の特徴が、耕作放棄地での栽培に適しているからです。・高温や乾燥に強い ⇒雨量が少なく、作物を育てるのが難しい土地でも栽培できる再生力が高い⇒1度の種まきで 2回以上の収穫ができる丈夫で害虫や病気にも強い⇒農薬の使用が少なくて済む以上のことから、ソルガムは、手間や時間、労力をかけない「省力栽培」が可能といえます。ソルガムなら、土地の造形(がけ、傾斜地など)や土壌の状態にも左右されません。さらに、雑草の茂った耕作放棄地であっても、ソルガムであれば、除草剤を使わない栽培が可能だということが、長野県の実地試験で明らかになっています。この試験では、10年以上にわたって放棄された耕作放棄地でも、ソルガムであれば、除草剤を使わない栽培が可能だという結論が出ています。参考:長野県畜産試験場・飼料環境部「1年生雑草が優占する耕作放棄地を対象としたソルガムの除草剤を使わない栽培法」ソルガムには、耕作放棄地の対策に一役買う、ポテンシャルの高さがあるのです。5.【ソルガムによる問題解決その3】土地の除染(除塩)ソルガムの栽培は、汚染された土地の除染(除塩)にも有用です。除染に使われるのは「ファイトレメディエーション(phytoremediation)」という技術です。▼ファイトレメディエーションとは▼主に土壌中の有害重金属や化学物質等を植物体に吸収させ、それを除去することにより環境を修復する技術。引用:佐藤睦人「ファイトレメディエーションによる放射性セシウム除去効果の検証」土壌汚染を起こす化学物質にはさまざまな種類があります。その中でもソルガムは、カドミウムの除染に効果があることが分かっています。2001~2005年度にかけて秋田農業試験場で行われた実証試験では、以下のような結果が確認されました。ソルガムを用いた土壌修復を主に2年間実施することにより、ほ場レベルで土壌中カドミウムは減少し、その修復土壌を用いてポット栽培したダイズ子実中濃度は半減する。引用:農研機構「ソルガムによる土壌修復はカドミウム汚染土壌のリスクを低減できる」また、ソルガムは除塩作物としての活用も可能です。高潮、津波などで海水に浸漬し、土壌に塩類が残留した農地では、耐塩性の高い飼料作物を作付けすることで、塩濃度を低下させられます。ソルガムは、季節によっては雑草を凌ぐほど生育スピードが速いため、除草剤を使わない省力栽培が可能です。この特徴からも、ソルガムは除塩作物として有用だとされています。参考:農研機構「塩害・湿害を軽減する飼料作物の栽培技術について」6.まとめソルガムは、以下4つの特徴から、持続可能性が高い作物といえます。さまざまな活用方法がある栽培管理しやすい生産性が高いバイオマス活用できるソルガムの持続可能性の高さは、以下のような日本の社会問題を解決する可能性を持っているといえるでしょう。農業の労働力不足休耕田や耕作放棄地の増加土壌の汚染や塩害