時代の変化に伴って、日本国内の飼料生産にまつわる課題も変わりつつあります。そんな中、問題を解決しうるのが、持続可能性の高い穀物「ソルガム」です。この記事では、ソルガムの強みや特長を紐解いていきます。日本の飼料や飼料生産の未来に関心のある方は、ぜひ読んでみてくださいね。1.国内の飼料生産にまつわる3つの課題まずは、現在の日本国内の飼料生産に関する課題を紹介します。現在、国内の飼料生産には、以下3つのような問題があります。自給率が約25%しかない気候変動の影響を受けやすい野生動物による食害が大きいここからは、3つの問題について、1つずつ見ていきましょう。まずはソルガムについて知りたい方は下記のリンクからチェックして下さい。1-1.自給率が約25%しかない日本の飼料自給率は、全体の約4分の1しかありません。この状況は、現在まで40年ほど続いており、令和4年度の自給率は26%に留まっています。参考:農林水産省「飼料自給率の現状と目標」飼料は「粗飼料」と「濃厚飼料」の2つに分けられますが、濃厚飼料(配合飼料)の国内自給率は約1割で、9割近くを輸入に頼っている状況です。参考:農林水産省「飼料自給率の現状と目標」コロナ禍以降、原油や物価高、円安、世界情勢の影響で、飼料の価格高騰が続いており、飼料自給率が低い日本の畜産業界は、苦境に立たされています。出典:農林水産省「畜産局」上のグラフは、飼料となるトウモロコシの、国際価格の推移を示したものです。コロナ禍となった2020年以降、それまでの倍以上に急上昇していることが分かります。2024年現在、価格は少し落ち着いてきてはいますが、今後も目を話せない状況であることには、変わりありません。1-2.気候変動の影響を受けやすい近年、以下のような気候変動による現象が、目立つようになっています。気温の上昇台風大雨、長雨暴風干ばつ(乾燥)飼料作物の多い北海道では、2015年~2018年に台風の上陸や長雨などの影響を受けることが多く、牧草やトウモロコシサイレージの生産が、安定しない時期が続きました。一方で、春先~初夏にかけて干ばつ期間が発生し、牧草やトウモロコシの生育不良や収穫量減少などの被害が発生しています。中でもトウモロコシは、雨や干ばつのストレスに弱く、障害や病害の原因となります。台風の直撃による、倒伏リスク増加も見逃せません。また、温暖化による影響も大きいものです。以下の世界地図は、過去30年にわたる、温暖化による収穫量の変化を示したものです。赤は温暖化で収穫量の減少した地域、緑は温暖化で収穫量が増加した地域を表しています。出典:農研機構「地球温暖化による穀物生産被害は過去30年間で平均すると世界全体で年間424億ドル」全体として収穫量は減少傾向にあります。生産額も含めて考えると、特に飼料として重要な作物であるトウモロコシの被害は甚大だと分かります。出典:農研機構「地球温暖化による穀物生産被害は過去30年間で平均すると世界全体で年間424億ドル」1-3.野生動物による食害が大きいイノシシやシカ、サルなどの、野生動物による食害も、大きな問題の1つです。農林水産省の調査によると、農作物への食害による被害金額は、令和4年度で156億円と、前年度と比べて0.5億円上昇しました。被害面積は約3万4千haで、前年度比0.8千ha増、被害量は約46万9千tと前年度比8千t増と、前年度よりも被害が軒並み悪化しています。出典:農林水産省「野生鳥獣による農作物被害金額の推移」被害金額の推移を示したグラフを見ると、ここ5年間は被害状況が横ばいだと分かります。地域別の被害状況を見ると、北海道が最多で、全体の36%を占めています。また、被害金額のうち、18%が飼料作物にあたります。出典:農林水産省「令和4年度 野⽣⿃獣による農作物被害に係る全国の状況」特に深刻化しているのは、シカやイノシシ、サルなどの獣類による被害です。野生動物による食害が増えているのは、地球温暖化や人工林の増加、過疎高齢化、狩猟者減少などが主な原因と考えられています。2.解決策は「ソルガム」にあった!ここまで、国内の飼料生産にまつわる、3つの問題点について解説してきました。これらの問題を解消する、解決策の1つとして期待されているのが、「ソルガム」です。ソルガムはアフリカ原産、イネ科モロコシ属の穀物です。世界の五大穀物の1つでもあり、世界各地で伝統的に食されてきました。ソルガムは、食用のほかにも、飼料や資材として活用できる、持続可能性の高い作物です。さまざまな特長を持つソルガムなら、現代の変化に即した、飼料の安定供給を実現できるのではないかといわれています。ここからは、ソルガムが飼料生産の解決策となりうる理由を、項目別に紹介していきます。3.ソルガム【消費上の強み】まずは、ソルガムの消費上の強みを見ていきましょう。3-1.栄養価が高いソルガムには、たんぱく質や食物繊維などの栄養素が、豊富に含まれています。例えば以下の表は、アメリカで食用として一般的に流通している「ホワイトソルガム」の栄養成分を、白米や玄米と比較した表です。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」下記グラフから分かるように、マグネシウムや鉄分などの、不足しがちな栄養素も、玄米より多く含まれています。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」さらに、健康効果の高いGABAやポリフェノール、食物繊維と同様の働きをする、難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)も含まれており、ダイエット効果も期待できます。栄養価が高く、栄養素が豊富という強みは、人が食用として摂取する際にはもちろん、家畜に飼料として与える場合にも、大きなメリットとなります。3-2.活用方法が多岐にわたるソルガムには、以下のような活用方法があります。人の食用家畜の飼料資材バイオ燃料「3-1.栄養価が高い」で挙げた通り、ソルガムは栄養素の高さ、豊富さから「スーパーフード」として、注目が集まっています。アレルゲンフリー、グルテンフリーな食材で誰にでも食べられ、食べやすく、汎用性が高いという点が、食用として受け入れられやすい理由でしょう。この理由は牛や羊、ヤギなどの家畜にとっても例外ではありません。ソルガムは、高タンパク質でビタミンとミネラルが豊富、消化吸収に優れる点で、飼料にも打ってつけです。また、食品や飼料として使われるのは、主にソルガムの子実ですが、ソルガムは太く長い茎葉も、資材として活用できます。実際、木材の代替や内装材、きのこ栽培の培地資材などに活用されています。さらに、ソルガムはバイオマス活用ができるという点でも有用です。ソルガムのバイオマス活用には、主に以下の2パターンの方法があります。メタン発酵した茎葉から得られるバイオガスを利活用する火力発電においてバイオマス燃料として使う4.ソルガム【生産上の強み】次に、ソルガムの生産上の強みについて解説します。4-1.栽培管理しやすいソルガムはほかの穀物と比較して、栽培管理がしやすいという利点があります。それは、ソルガムに、以下2つの特徴があるからです。高温や乾燥に強い ⇒雨量が少なく、作物を育てるのが難しい土地でも栽培しやすい丈夫で害虫や病気にも強い⇒農薬の使用が少なくて済むこのような特徴から、同じ穀物である米や麦などと比べ、育てる手間が少ないといえます。4-2.獣害に遭いにくいソルガムは、ほかの穀物よりも、獣害に遭いにくいといわれています。飼料用トウモロコシは、以下の理由から、獣害に遭いやすい傾向にあります。実が大きく目立つ穂が実る位置が低い野生動物が味覚を学習していて、エサだと認識されている一方でソルガムは、穂が200cm以上の高い位置につくため視認性が悪く、多くの野生動物にとって、未知の植物であるため、エサという認識がまだなく、食害が少なくて済みます。この事実は、獣害の発生が多い中山間地域の現地実証試験で、すでに確認されています。実証試験の結果、飼料用トウモロコシはイノシシの被害を受けたのにもかかわらず、ソルガムには全く被害が出ていません。参考:群馬議試研報 第18号「ソルガムを利用した獣害対策と良質粗飼料生産」4-3.耐倒伏性に優れるソルガムは、ほかの穀物よりも、耐倒伏性に優れています。夏期間に育てられる、二大飼料作物に、トウモロコシとソルガムがあります。トウモロコシは、品種改良により、以前よりも耐倒伏性が格段に上がっています。しかし、台風などによる暴風に耐えうるものではありません。その点、ソルガムであれば、背が高く、茎が太く固いことから、耐倒伏性に優れています。出典:農研機構「スーダン型ソルガム2回刈り栽培の倒伏折損被害低減技術としての有効性」上記の画像は、左が、2019年7月24日に、暴風雨で倒伏したスーダン型ソルガム「涼風」の1番草です。約1週間後の8月1日には、右画像のように回復した姿が確認されています。出典:農研機構「スーダン型ソルガム2回刈り栽培の倒伏折損被害低減技術としての有効性」上記画像は、2019年7月24日よりも強い風が続いたものの、倒れることのなかった、「峰風」(左)と「涼風」(右)の2番草です。このように、ソルガムは暴風に倒れにくく、たとえ倒れてしまっても、起き上がる能力がトウモロコシよりも高いため、台風期間を避けずに作付けできます。一般の農家でも、風の強い地域や、台風対策として、畑の作物の周りを取り囲むように植え、防風目的で広く用いられている実績があります。4-4.生産性が高いソルガムは再生力の高さから、生産性が高いことにも定評があります。再生草を利用することで、1度の種まきで 2回以上の収穫が可能です。特に再生力が高いスーダングラスなどの品種では、早い時期に種まきをして、穂が出る前など、早いタイミングで収穫することで、年に3回収穫できる場合もあります。実際に、西日本では2回刈りなどの多回利用が一般的です。5.まとめ現在、国内の飼料生産には、以下3つのような問題があります。自給率が約25%しかない気候変動の影響を受けやすい野生動物による食害が大きいしかし、持続可能性が高く、さまざまな特長を持つソルガムであれば、これらの問題を解決できるかもしれません。ソルガムの強み(特長)は、以下にまとめる通りです。消費上の強み栄養価が高い活用方法が多岐にわたる生産上の強み栽培管理しやすい獣害に遭いにくい耐倒伏性に優れる生産性が高い