スーパーフードとして、世界中の注目を集めているソルガム。実は、お酒としても、伝統的に飲まれてきた歴史があるんです。そこで今回の記事では、ソルガム酒について解説します。ソルガムの基礎知識はもちろん、伝統的なお酒から、いま飲めるお酒まで、幅広く紹介しますので、興味のある方はぜひご一読ください。1.ソルガムとはソルガムはアフリカ原産、イネ科モロコシ属の穀物です。世界の五大穀物の1つでもあり、世界各地で伝統的に食されてきました。最近では、さまざまな可能性を秘めた「スーパーフード」として注目されており、日本国内でも、各自治体などで活用事例が出てきています。ソルガムは、食用のほかにも、飼料や資材として活用されており、近年では、火力発電などに使う「バイオマス活用」も注目されています。2.ソルガムはスーパーフード古くから世界中で食されてきたソルガムですが、近年、その「スーパーフード」としての可能性に注目が集まっています。ここでは、ソルガムがスーパーフードと呼ばれる3つの理由を解説します。2-1.アレルゲン・グルテンフリーソルガムは、アレルゲンフリー、グルテンフリーな食材です。ソルガムは、食品表示法で定められている28品目のアレルゲン物質を含んでいません。同じ穀物である小麦やお米にアレルギーがあっても、気にせずに食べられます。さらに、ソルガムはグルテンフリーな食材でもあります。そのため、セリアック病やグルテン不耐症の方も、リスクなく安心して食べられます。2-2.栄養素が豊富ソルガムは、ほかの穀物と比べて、栄養素が豊富だということが分かっています。例えば、たんぱく質や食物繊維などの栄養素が、ふんだんに含まれています。以下の表は、アメリカで食用として一般的に流通している「ホワイトソルガム」の栄養成分を、白米や玄米と比較した表です。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」熱量(エネルギー)と脂質・糖質は、白米や玄米と大差ないのにもかかわらず、たんぱく質と食物繊維はより多く含まれていることが分かります。さらに、マグネシウムや鉄分などの、不足しがちな栄養素も、より多く含まれています。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」ほかにも、健康効果の高いGABAやポリフェノール、難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)など、優れた栄養成分が含まれていることが、最新の研究で分かってきています。2-3.食べやすく、汎用性が高いソルガム(きび)は、昔話「ももたろう」に登場するほど、日本でも馴染み深い食材です。種類を選べば、基本的にはクセのない味と食感で、食べやすいでしょう。さらに、料理にも使いやすく、汎用性の高さが魅力です。ソルガムの全粒や精白粒は、雑穀として米や麺に混ぜるのはもちろん、スムージーやスープ、サラダなど、さまざまな料理に活用できます。浸水時間を長くとると弾力が出るので、挽き肉の代わりにも使えます。コロッケやハンバーグなど、カロリーの高い料理も、ヘルシーに仕上がります。製粉したソルガムは、小麦粉と性質が近く、パンや焼き菓子などの材料として活躍します。米粉との相性もよく、ブレンドするとおいしい米粉パンも作れます。3.ソルガムはお酒の原料としてもポピュラーここまで、食品としてのソルガムについて紹介してきました。さらに、ソルガムはお酒の原料となる穀物としても、米や麦、トウモロコシと同じように、よく知られています。お酒を製造方法別で見ると、大きく以下3種類に分けられます。醸造酒:原料を酵母でアルコール発酵させて造るお酒蒸留酒:醸造酒を蒸留させたお酒混成酒:醸造酒や蒸留酒に、果実や薬草、香料などを加えたお酒それぞれのお酒には、以下のような種類があります。【】の中に挙げるのは、主原料です。醸造酒・日本酒、紹興酒【米】・ワイン【ブドウ】・ビール類【麦芽など】蒸留酒・焼酎【米、麦、そば、さつまいも】・ウイスキー【大麦やライ麦、トウモロコシ】・ブランデー【ブドウなどの果実】混成酒・果実酒【梅、ゆず、もも、あんずなどの果実】・リキュール【果実や花、香草、甘味料など】こうして見ていくと、主原料には主に、果実と穀物のいずれかだと分かります。ソルガムは、ビールやスピリッツなど、穀物で造れるお酒であれば、原料として使えるため、お酒の原料としても幅広い活用が期待できます。4.世界中で伝統的に飲まれてきたソルガムのお酒ここからは、実際に世界各国で飲まれてきた、ソルガムが原料のお酒を紹介します。4-1.【中国】紹興酒紹興酒は、フランスのワイン、日本の純米吟醸酒と並び、世界三大美酒の1つといわれる、中国の醸造酒で、英語では「Chinese wine」と呼ばれます。出典:西宮・紹興友好交流協会「2023年5月「紹興酒を楽しむ会in西宮」をヒューイット甲子園で開催しました」紹興酒の歴史は古く、書物に確認される約2,400年以上前の春秋時代(紀元前722~481年)には、すでに盛んに醸造されていたと考えられています。中国では、穀物の醸造酒を黄酒(ホワンチュウ)と呼びます。紹興酒は中国浙江省(せっこうしょう)にある紹興市で造られる黄酒で、黄酒の中でも、3年以上の貯蔵熟成期間を経た、老酒(ラオチュウ)でもあります。紹興市は湖沼の多い水郷地帯で、紹興酒は名水として知られる「鑒湖(かんこ)」の水を使うことが、醸造の条件とされています。出典:西宮・紹興友好交流協会「紹興市」紹興酒は、もち米から造られますが、糖化に欠かせない麹には、麦やきび(ソルガム)が使われます。仕込みで発酵の段階を終えたら甕に詰め、長期熟成の期間に入ります。現代中国では蒸留酒「白酒」が人気白酒(バイチュウ)は、中国発祥の、穀物を原料とした蒸留酒です。前述した紹興酒は、醸造したままで蒸留していない褐色のため「黄酒」と呼ばれますが、白酒は醸造酒を蒸留するため透き通っており、「白」は無色透明を意味します。原料となる穀物はさまざまですが、中国では「高梁(コウリャン)」と呼ばれるソルガムのほか、トウモロコシや麦が使われることが一般的です。日本では、中国のお酒というと紹興酒が有名ですが、中国では白酒の方がポピュラーで、食中酒としてよく飲まれています。そのため、白酒(蒸留酒)は、黄酒(醸造酒)の倍以上の生産量を誇ります。紹興酒と比べると、新しいお酒ではありますが、それでも前漢期(紀元前206年~208年)には造られていたのではないかという予測もあり、長い歴史のあるお酒です。4-2.【南部アフリカ諸国】醸造酒(ビール)・蒸留酒南部アフリカ地域のいくつかの国でも、ソルガムを原料としたお酒が親しまれています。一例を挙げるだけでも、これだけの種類があります。南アフリカ【ウンコンボウティ】…ソルガムと雑穀の醸造酒ジンバブエ【チブク】…ソルガムとトウモロコシの醸造酒【ンダーリ】…ソルガムと雑穀の醸造酒ナミビア【ムチョアラ】…ソルガムと雑穀の醸造酒ボツワナ【モテナ、ンベレレ、モクレ】…ソルガムと雑穀の醸造酒参考:酒紀行家 江口まゆみ「世界の地酒と日本酒」ソルガムのでんぷんを、糖化・発酵させて造る醸造酒のほか、醸造酒を蒸留して造る蒸留酒もあります。スーダンでは、ソルガムから造るメリッサというビールがポピュラーです。とても複雑な工程を経て造られるビールで、発酵や加熱、混合やろ過を繰り返して、やっと完成します。このほか、ソルガムに麦やトウモロコシ、バナナなどを組み合わせたお酒など、多くの国でさまざまな種類の、ソルガムのお酒が、日常的に造られています。エチオピアにはソルガムから造るお酒を「主食」とする民族もエチオピアのコンソという地域では、ソルガムを主原料として造る「チャガ」という、ビールのような飲み物を主食としています。チャガのアルコール度数は5%ほどですが、小さな子どもから大人まで、1日4回の食事のうち、主要な2回はチャガを飲みます。ほかにも、同じエチオピアのデラシャという民族も、ソルガムから造った「パルショータ」というお酒を主食としています。ソルガムは一般的に「柔らかい団子か餅のような形態」で食べられることが多いのですが、お酒にする過程で発酵させることで、必要な栄養素をまかなえるようになります。ソルガム酒が主要な栄養源なので、主食として重宝されているのです。このような例を見るだけで、ソルガムがスーパーフードと呼ばれる理由が分かりますね。5.日本でも飲める!?ソルガム酒最後に、日本でも飲めるソルガム酒を3つ紹介します。今回紹介するのは、以下3つのソルガム酒です。CODELLANNI™/蒸留酒(スピリッツ)ソルガムエール「煌り」/醸造酒(ビール)オブライエン/醸造酒(ビール5-1.CODELLANNI™/蒸留酒(スピリッツ)1つ目は、日本で初めてのソルガムスピリッツ「CODELLANNI(コデランニ)」です。出典:CODELLANNIコデランニは2012年から東日本大震災の津波被災地で行われてきた「ソルガムを用いた被災地における農業再生プロジェクト」から生まれたお酒です。宮城県南三陸町では、被災地における農業や産業の再生を目指して、イネよりも栽培が容易で、光合成能力に優れ、生長の早いソルガムの栽培を、2012年に始めています。世界各国でソルガム酒が造られている一方、日本ではソルガムシロップがほとんど利用されていないことに着目し、国内初のソルガムシロップを原料とした蒸留酒を商品化しました。クリアでくっきりとした飲み口でありながら、ほんのりした甘みもある、まろやかな口当たりのお酒で、ストレートでもカクテルベースでも楽しめます。「コデランニ」という名前は、「素晴らしい」「たまらない」などの意味を持つ東北・北関東の方言「こでらんに」をイタリア語風になぞらえたものです。5-2.ソルガムエール「煌り」/醸造酒(ビール)2つ目は、信州大学工学部とAKEBONO株式会社が共同開発した、ソルガムのビール「煌り(きらり)」です。出典:ふるさとチョイス「J0043ソルガムエール 12本セット - 長野県長野市」煌りは、長野市と信州大学の「長野市耕作放棄地等におけるソルガム活用調査共同研究」というプロジェクトで、初めて商品化に至った製品です。エチオピアでお祭りの際に、祝い酒として飲まれているソルガムのビールをヒントに、開発されました。麦芽の一部に、長野市で育てたソルガムが使われています。一般的なビールや発泡酒特有の苦味や後味が少なく、爽やかな香りと独特な風味が特徴です。2023年限定の醸造ですが、まだ在庫があり、長野市のふるさと納税の返礼品として「ふるさとチョイス」などで扱っています。興味のある方はぜひ挑戦してみてくださいね。5-2.信州ソルガムのビール/醸造酒(ビール)出典:kibi食糧問題、環境問題、エネルギー問題に取り組む「バイネックス株式会社(BINEX)」では、「kibi」というプロジェクトで、ソルガムを使った商品の開発に取り組んでいます。その中で試作が進んでいるのが、信州産ソルガムのクラフトビールです。このビールは、大麦とソルガムを1:1の割合で使用しています。香り高く、自然由来の豊かな味わいが楽しめる、ヘルシーなソルガムビールが発売される日も、遠くないかもしれません。5-3.オブライエン/醸造酒(ビール)「オブライエン」は、オーストラリア「Rebellion Brewing Pty Ltd」が醸造する、完全グルテンフリーのクラフトビールです。一般的なビールのように、モルトに麦芽を使用しておらず、代わりに古代穀物のソルガムとミレットを使用することで、グルテンフリーを実現させています。グルテンフリー先進国のオーストラリアでは、2005 年に販売を開始しており、現在ではオーストラリア全土のお店で販売されています。ビール好きも納得の本格的なクラフトビールで、ビールの国際大会では、40以上の国内外の賞を受賞している実力派です。2023年11月に神戸精化株式会社が「Makuake」で先行独占販売をして、国内の話題を呼びました。現在はグルテンフリー食品・飲料の専門ブランド「Fifty-Fifty」で購入できます。6.まとめ栄養素が豊富で、汎用性の高い食材、ソルガム。お酒の原料としてもポピュラーで、醸造酒と蒸留酒、いずれのお酒にも利用できます。実際、中国の紹興酒や白酒などの伝統的なお酒のほか、南部アフリカ諸国の地ビールの主な原料としても、古くから親しまれています。いま日本国内でも、入手できるソルガム酒があります。ソルガム酒ならではの自然由来の豊かな味わいを、楽しんでみてはいかがでしょうか。