世界の5大穀物であるソルガムには、食用としてだけではないさまざまな特徴があります。ソルガム由来のバイオエタノールで、脱炭素化に期待の高いエネルギー源を開発する取り組みが進められているのをご存知でしょうか。 今回はソルガム由来のバイオエタノールについて、さまざまな角度から解説していきます。バイオエタノールに適したスィートソルガムや、バイオエタノールの開発事例を学ぶことができますので、ぜひご一読ください。バイオエタノールとは?バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシ、木材などの植物資源を発酵・蒸留して製造したものです。ソルガムもバイオエタノールの原料のひとつです。バイオエタノールをより理解するためには、基本となる「バイオマス」や「バイオマス燃料」、「バイオ燃料」について理解しておく必要があります。バイオマスとは?九州農政局によるとバイオマスとは、「生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」です。もっと具体的に言うと、太陽エネルギーを使って水と二酸化炭素(CO2)から生物が光合成によって、生成した有機物となります。化石燃料の代替エネルギーや、地球温暖化対策に貢献する次世代のエネルギーとして注目されています。バイオマスの対象は多義に渡るため、区分の仕方も多様化しています。バイオマス燃料とバイオ燃料はほぼ同義でしたが、現在は形状によって以下のように区分されることが増えています。木質バイオマス固体(林地残材、製材廃材、建築廃材など)バイオマス燃料固体、液体、ガス体(バイオガス)バイオ燃料バイオエタノール、バイオディーゼルなどの液体燃料参照:木質バイオマス、バイオマス燃料、バイオ燃料とは(一般財団法人新エネルギー財団)バイオエタノールが注目される背景 バイオエタノールが注目されている背景には、地球温暖化対策として脱炭素化の推進やエネルギーの多様化、化石エネルギーへの依存低減などが挙げられます。石油をはじめとする化石エネルギーは、燃焼時に大量のCO2を排出し、地球温暖化を促進します。しかしバイオエタノールは、CO2や有害物質の排出量が少なく、エコなエネルギーとして使用可能です。さらに日本の場合、石油などの燃料のほとんどを海外に存しています。そのため国際情勢によってはエネルギー価格の高騰や、需給の逼迫を招きます。国内のエネルギー安全保障を確立するためにもエネルギーの多様化は急務です。バイオエタノールは、これらの課題を解決するカギとなり得るため、注目されています。なぜ脱炭素化が重要なのか温室効果ガス排出による地球温暖化の加速とそれに伴う気候変動リスクは年々上昇しています。気象庁により2022年の世界の平均気温の基準値は(1991年から2020年までの30年間の平均値)、1891年に統計を開始してから6番目に高い値となったことが報告されました。さらに、世界の年平均気温は100年あたり0.74℃の割合で上昇していることがわかっています。 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による第5次評価報告書では、CO2の累積排出量と世界の平均気温の上昇は、ほぼ比例関係にあることも伝えられています。もし世界の平均気温が、いまより2℃上昇したら、人間が地球上で生活していくことは困難と言われています。脱炭素化推進は、あらゆる面で重要となっています。引用:気象庁「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2022年)」バイオエタノールのメリットバイオエタノールには次の3つのメリットがあります。カーボンニュートラル達成に貢献できる 農地を有効活用できるエネルギー安全保障への貢献それぞれを詳しく解説していきます。カーボンニュートラル達成に貢献できるバイオエタノールは燃焼すると、原料となる植物が成長過程で吸収したのと同量のCO2を大気中に放出するという特性を持ちます。つまりバイオエタノールは、大気中のCO2濃度が実質変化しないカーボンニュートラルであるといえます。そのためバイオエタノールをエネルギーとして使用することで、脱炭素化を推進するカーボンニュートラル達成貢献に期待できます。農地を有効活用できるバイオエタノールの原料は、サトウキビやトウモロコシなどです。そのため原料の生産を行うことで耕作放棄地や、農地を有効活用することができます。それにより食料供給力の維持・向上、そして食料安全保障への貢献、新産業の創出による雇用機会の増加や農村地域の活性化を図れます。エネルギー安全保障への貢献バイオエタノールを生産活用することで、石油代替エネルギーの生産による原油価格高騰への対応が可能です。前述したように日本は、石油などの燃料を海外からの輸入に依存しています。そのため、バイオエタノール導入を推進することは、エネルギー供給源の多様化によるエネルギー安全保障への貢献につながります。参照:バイオ燃料生産拠点確立事業について(農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課)ソルガムとは世界の5大穀物の一つソルガムとは、南アフリカ原産のイネ科の穀物で、世界5大穀物のひとつであり、30以上の国で5億人以上の主食となっています。アメリカでは大豆、小麦に続く重要な穀物であり、家畜の飼料としても重宝され幅広く活用されています。日本では「たかきび」や「あまきび」、「ソルガムきび」という名で親しまれ、雑穀として飼料作物や緑肥用に栽培されています。一般的には食材として知名度が高いソルガムですが、実はさまざまな特徴があります。以下で詳しく解説していきましょう。ソルガムの特徴ソルガムには、以下のような特徴があります。生長が早いイネ科の一年草のため、3ヶ月程度で収穫が可能。適切な条件で栽培すると、毎年複数回の収穫を行えるという特徴があります。寒冷地や乾燥地にも適応が可能あらゆる土地で適応可能なため、幅広い地域、異なる土壌で栽培ができます。茎も利用が可能茎はエタノールの原料として利用され、穀粒は食用として利用可能など、幅広く活用できます。バイオマス燃料としてさまざまに活用ソルガムは、バイオエタノールのほかに、バイオマス発電の燃料として使用可能です。ソルガム由来のバイオエタノールとは前述したようにソルガムは食料としてではなく、バイオマス燃料としても近年、非常に注目されています。ここからはソルガム由来のバイオエタノールについて詳しく解説していきます。なぜソルガムなのかバイオエタノールの生産ではセルロースを糖化してから発酵させるよりも、糖を直接発酵させる方が技術的に効率はよく、コストは安価になります。ソルガムは大型のイネ科植物で、サトウキビと同じように糖を茎に蓄積する性質があります。そしてサトウキビと比べると、はるかに生育が早い穀物です。このためバイオエタノールを、安価に生産可能なソルガムの高糖性搾汁液の活用に期待が高まっています。バイオエタノールに適したスィートソルガムソルガムの種類のひとつに、スイートソルガムがあります。スイートソルガムは、サトウキビと同等の高い糖分を有しており、サトウキビと比べて生育可能地域が広く、国内、海外の広い地域で生育することができます。さらにスイートソルガムは、平均15℃以上であれば生育可能なため、日本国内なら北海道南部より以南の地域で栽培もできると考えられています。またスイートソルガムの生育期間は、 4~5ヶ月と短いのが特徴です。このため理論上は二期作が可能です。これらのスイートソルガムの特性は、バイオエタノールの製造原料として、非常に適性が高いといえます。参考にサトウキビとの比較を表にまとめました。原料生育期間生育地域エタノール収量スイートソルガム4~5ヶ月熱帯~寒冷地3.4~4.4 トン/haサトウキビ12~18ヶ月熱帯・亜熱帯3.1~5.5 トン/ha引用:スイートソルガム研究会報告書(スイートソルガム研究会報告書)ソルガムについてはこちらの記事も、ご参照ください。ソルガム由来のバイオエタノール活用事例ここからはソルガム由来のバイオエタノールを活用した企業事例や、研究開発の事例をご紹介していきます。日産自動車2016年、日産は世界で初めてバイオエタノール燃料の固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)を、動力源とする車両推進システムを開発しています。そして2024年には、高効率発電が可能な定置型バイオエタノール燃料システムを開発したと発表しました。定置型発電システムの燃料は、Binex社と共同開発したソルガムから製造するバイオエタノール(ソルガムバイオエタノール)です。日産は、2050年までに事業活動におけるカーボンニュートラルを実現することを目指しています。ソルガムバイオエタノールの活用は、実質的にCO2増加をゼロにするカーボンニュートラルサイクルの実現に貢献するものとして期待されています。参照:日産自動車ニュースルームトヨタ自動車・ENEOSほかまたトヨタ自動車やENEOSなど6社でつくる組合は、自動車用バイオエタノール燃料の研究所を福島県大熊町に設置することを発表しています。本研究施設はイネ科の植物「ソルガム」を加工し、研究用自動車の燃料として年間60klのバイオエタノールの生産が目標です。効率的なエタノール生産や副産物のCO2回収技術の確立を目指します。参照:持続可能なエネルギーの開発に向けて(大熊町)まとめ脱炭素化推進に貢献するソルガム由来のバイオエタノールについて、詳しく解説しました。ソルガム由来のバイオエタノールはすでに活用されており、今後ますます開発が促進されることが予測されます。本記事でソルガム由来のバイオエタノールについて知見を深め、脱炭素化の貢献に取り組んではいかがでしょうか。