ソルガムは、近年アメリカなどで「スーパーフード」やグルテンフリー食材として注目を集めている食材です。とはいえソルガムは、古くから伝統的に食べられてきた穀物でもあり、現在もソルガムを主食としている人々がいます。そこで今回は、主食としてのソルガムについて、解説します。1.ソルガムとはソルガムはアフリカ原産、イネ科モロコシ属の穀物です。世界の五大穀物の1つでもあり、日本も含め、世界各地で伝統的に食されてきました。今もソルガムを主食としている地域や人々がいます。最近では、さまざまな可能性を秘めた「スーパーフード」としても広く注目を集めており、日本国内でも、各自治体などで活用事例が増えてきています。食用のほかにも、飼料や資材としてなど、幅広い活用法があり、近年では、火力発電などのエネルギー源や自動車用燃料として使う「バイオマス活用」の研究も進んでいます。このように、ソルガムは幅広い分野で将来性を期待されているのです。出典:日本畜産学会「ソルガム - 畜産用語辞典」2.ソルガムは世界各国で伝統的に主食とされてきた前述した通り、ソルガムは世界の国々で伝統的に主食とされてきた、そして今なお主食として広く食べられている穀物の1つです。世界の多くの国では、小麦や大麦、米、トウモロコシなどを主食としています。一方、アフリカではソルガム(モロコシ)やミレット(ヒエ・アワ・キビなど)のほか、じゃがいもなどのいも類を主食にする国もあります。ソルガムとミレットは、大きな分類としてはどちらも同じ穀物で、立ち位置や見た目も似ていますが、以下のような違いがあります。ソルガム別名たかきびやコーリャン、モロコシとも呼ばれる大粒の雑穀ミレットソルガムよりも粒の小さいヒエやアワ、キビといった雑穀の総称下の世界地図で、濃いピンク色で示された範囲が、ソルガムを主食とする国です。出典:社会実情データ図録「図録▽世界各国の主たる作物(世界地図)」現在もソルガムを主食としている国として、以下のような国々や地域が挙げられます。インド中央アメリカメキシコスーダン南スーダンエチオピアナイジェリアガーナモーリタニアチャド3.ソルガムの主食としての食べられ方ソルガムは、今もたくさんの国や地域で主食として食べられています。ここからは、ソルガムにはどのような食べ方があるのかを紹介していきます。3-1.おかゆソルガムの主食として、最も一般的なのが、おかゆや団子状に調理したものです。ソルガム粉をお湯で練った、日本のそばがきのような練りがゆは、ウガリやトゥヴォ、アシーダ、カロやマトというもので、アフリカやインド、中央アメリカで食べられています。出典:外務省「探検しよう!みんなの地球」練りがゆは、ソルガムだけでなく、大豆やトウモロコシ、米などの粉と合わせることもあります。魚や肉料理に添えたり、スープや煮込み料理に付けたりして食べるのが一般的です。一方で、もっとお湯の分量が多く、飲むようにして食べる、薄いおかゆは、オギやココ、アカサと呼ばれ、ナイジェリアやガーナで、多く食べられています。出典:TABLE FOR TWO「支援先レポートVol.45を公開しました」栄養価の高い雑穀のおかゆは、離乳食としてもポピュラーで、学校給食として提供されている国や地域もあります。3-2.パン(クレープ)ソルガムを挽いた粉を使って作るパン(クレープ)も、主食として一般的です。パンには、発酵させて作るものと、そうでないものがあります。発酵させないパンとして有名なのが、インドでよく食べられるチャパティやロティで、どちらも薄いクレープのような見た目をした、いわゆる薄焼きパンです。出典:科学技術振興機構「アジアンフードのGI値を知って糖尿病予防 シンガポールの研究者がリスト作成」インド中西部のマハーラシュトラーでは、ソルガムで作るチャパティ「バクリ」が、伝統的に親しまれています。チャパティは小麦でも作られますが、小麦ではなくソルガムを使うことで栄養豊富で体にいいことを、現地の人々もよく知っています。また、中央アメリカやメキシコでポピュラーなトルティーヤも、小麦やトウモロコシで作られるのが一般的ですが、ソルガムで作ることもできます。一方、発酵させるパンには、アフリカやスーダン、インドで食べられるキスラやドーサのほか、チオピアのインジェラなどがあります。↓エチオピアのインジェラは、雑巾のような見た目と、強烈な酸っぱさから「世界一まずい主食」という不名誉な称号を得ていることで有名です。出典:JICA海外協力隊の世界日記「新隊員との食事 | エチオピアからの手紙(三小田 真裕)」これらも発酵させないパンと同じで、薄いクレープのような薄焼きパンです。ソルガム粉を、ぬるま湯でふやかすように溶いて丸め、生地を平たく丸く伸ばして焼くという作り方は、どのパンにも共通しています。こういったクレープ状のパンは、肉や魚、野菜のおかずやソースを挟んだり、包んだりして食べるのが一般的です。3-3.そのほかパスタなど世界最小のパスタと呼ばれるクスクスも、アルジェリアなどの北アフリカや、セネガル、マリなどの西アフリカで、主食として食べられています。クスクスは、発祥地はモロッコですが、今ではヨーロッパやブラジルなど、広い地域で、食べられている、2mm程度のごく小さな粒状のパスタです。クスクスの主な材料は、硬質小麦の一種であるデュラム小麦の粗挽粉ですが、アフリカの一部の国や地域では、トウモロコシやソルガムも使われています。クスクスは、そのまま蒸すほか、野菜スープなどの汁物に入れて茹でて調理し、おかずとともに食べるのが一般的です。また、アフリカやインド、ハイチの一部地域では、ソルガム全粒やソルガムの精白粒を茹でたものを、米のごはんのように主食とする地域もあるそうです。3-4.お酒ソルガムは主食となるお酒の原料にも用いられています。エチオピアのコンソという地域では、ソルガムを主原料として造る「チャガ」という、ビールのような飲み物が主食として、古くから愛飲されています。チャガのアルコール度数は5%ほどですが、小さな子どもから大人まで、1日4回の食事のうち、主要な2回はチャガを飲むそうです。ほかにも、同じエチオピアのデラシャという民族は、ソルガムから造った「パルショータ」と呼ばれる、緑色の醸造酒を主食としています。パルショータを造るには、非常に複雑な工程を経る必要があり、仕込みから完成に至るまで、3ヵ月以上の時間がかかります。デラシャの人々は、活動時間のおよそ3~5割の時間を使って、大量のパルショータを飲んでおり、人が生きるのに必要なだけの栄養とカロリーを、ほとんどすべて摂取しています。4.ソルガムが飢餓に苦しむ人々を救える理由調査結果によると、ソルガムは、1966年時点で、アフリカなどの半乾燥熱帯地域の30を超える国や地域で、5億人以上の人々の主食をまかなっていたといいます。2020年にノーベル平和賞を受賞した国連WFPは、スーダンなどの地域に10万トン以上ものソルガムを運び、深刻な食糧不足に苦しむ人々を救っていることで話題になりました。出典:WFP「2国間をつなぐ穀物」このように、ソルガムは、その特長から、飢餓に苦しむ人々を救う可能性を持っています。ここからは、ソルガムが、食糧として優れている点を紹介します。4-1.エネルギー供給に優れているソルガムは、ほかの穀物と比べて栄養素が豊富で、たんぱく質や食物繊維、複合ビタミン Bなどの栄養素が、ふんだんに含まれており、エネルギー供給に優れています。以下の表は、アメリカで食用として一般的に流通している「ホワイトソルガム」の栄養成分を、白米や玄米と比較した表です。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」熱量(エネルギー)と脂質・糖質は、白米や玄米と大差ないのにもかかわらず、たんぱく質と食物繊維はより多く含まれていることが分かります。ほかにも、健康効果の高いGABAやポリフェノール、難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)など、優れた栄養成分が含まれていることが、最新の研究で分かってきています。ソルガムは必須栄養素が豊富に含まれる、エネルギー供給にうってつけの食材です。4-2.貧血を予防できるソルガムには、マグネシウムや鉄分などの、不足しがちな栄養素が、多く含まれています。出典:アメリカ穀物協会「アメリカ産ソルガムきび」マグネシウムや鉄分が不足しやすいのは、食事から摂取するのが難しいからです。飢餓に苦しむ人の多い開発途上国では、貧血が深刻な問題となっており、中でも妊産婦の健康や乳幼児の発育に、大きな影響を及ぼしています。ソルガムはマグネシウム、鉄、亜鉛のいずれにおいても優れた栄養供給源となるため、貧血の予防に役立つと考えられます。4-3.高温や乾燥に強く、栽培しやすいソルガムは高温や乾燥に強く、栽培しやすい作物なので、雨量が少なく、ほかの作物を育てるのが難しい土地でも、栽培できます。さらに、以下のような特性も兼ね備えており、手間やコストを最小限に抑えられます。丈夫で害虫や病気にも強い⇒ 農薬の使用が少なくて済む獣害に遭いにくい⇒ 獣害の対策が必要ない耐倒伏性に優れる⇒ 強風に強く、作付けの時期が限定されない飢餓の問題を解決するために、この上ない作物だといえます。4-4.生産性が高いソルガムは再生力の高さから、生産性が高いことに定評があります。ソルガムは再生草を利用することで、1度の種まきで 2回以上の収穫が可能です。特に再生力が高いスーダングラスなどの品種では、早い時期に種まきをして、穂が出る前など、早いタイミングで収穫することで、年に3回収穫できる場合もあります。出典:『牧草と園芸』 第65巻第2号(2017年)実際に、日本国内の事例によると、西日本では2回刈りなどの多回利用が一般的です。5.まとめ世界には、米や小麦、トウモロコシなど、さまざまな主食があります。実はソルガムも、世界の国々で伝統的に主食とされてきた、そして今なお主食として広く食べられている穀物の1つなのです。今もアフリカ諸国やインド、メキシコなどの国や地域には、ソルガムを主食とする人々がいます。ソルガムはおかゆやパン、パスタ、お酒などに調理、加工されて、主食となります。国や地域によって、さまざまな主食が食べられています。ソルガムはさまざまな栄養素を含む、エネルギー供給に優れた穀物なので、食糧不足で飢餓に苦しむ人々への支援物資としても、活用されています。