気候変動対策としてカーボンニュートラルへの取り組みはいまや世界的な潮流です。そのためには再生可能エネルギーの推進が欠かせません。再エネの一つである木質バイオマスエネルギーは、持続可能なエネルギー源として期待されています。今回はカーボンニュートラルの重要性と、木質バイオマスエネルギーのメリット・デメリットを解説します。またバイオマスエネルギーに有効な穀物ソルガムについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。カーボンニュートラルとはカーボンニュートラルとは、「人為的な発生による温室効果ガスの排出量と、吸収量を均衡させる」という考え方です。わかりやすく解説しましょう。まずは人間活動を行う上で、発生する温室効果ガス排出量をできるだけ削減する努力をします。しかしどうしても削減しきれない温室効果ガスは発生します。その場合は、森林の植林や保全活動による吸収・除去、または温室効果ガスの発生が少ない再生可能エネルギー(以下再エネ)の活用で、温室効果ガスを、「実質0」にします。このような取り組みをカーボンニュートラルと呼びます。出典:環境省「脱炭素ポータル」カーボンニュートラル達成は世界的な課題地球温暖化抑止による気温上昇が続く中、カーボンニュートラルの重要性は年々増加しています。2024年の夏は1850年に観測が開始されて以来、世界平均気温は観測史上最高を記録しました。欧州連合の地球観測プログラム「コペルニクス」によると、産業革命以前と比較して世界の平均気温は1.5度を超えたと報告されています。IPCCによる第5次評価報告書では、CO2の累積排出量と世界の平均気温の上昇は、ほぼ比例関係にあり、もし平均気温がこれまでより2度上昇したら、人間が地球上で生活していくことは困難と伝えています。これ以上の地球温暖化抑止のためにも、カーボンニュートラルの推進は重要です。世界と日本のカーボンニュートラルへの取り組み各国の温室効果ガスの削減目標は以下のようになります。国名2030年までの排出削減目標2050年カーボンニュートラルに向けてアメリカ50%~52%(2005年比)表明EU55%以上(1990年比)表明韓国40%(2018年年比)表明中国GDP当たりのCO2排出量65%(2005年比)2060年に向けてインド45%(2005年比)2070年に向けて日本46%(2013年比)表明引用:外務省「気候変動 各国の2030年目標」2024年の「G7サミット(主要国首脳会議)」では、「世界全体のネット・ゼロ」のため、各国が協働し、対策のスピードアップを図ることが必要と伝えられました。また「世界全体の再エネ容量2030年3倍」の実現に向けて、世界全体でのエネルギー貯蔵を1500GW(2022年比の6倍以上)に目指していくことも表明しています。今後ますます再エネの活用は、推進されていくでしょう。カーボンニュートラルに貢献する再生可能エネルギーそれではここから再エネについて詳しく解説していきましょう。再エネとは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、自然界に常に存在するエネルギーで、化石燃料と違い温室効果ガスの発生が少ないという特徴があります。再生可能エネルギーの種類再エネには次のような種類があります。太陽光発電太陽光を太陽光パネルに当てることで、直流電気に変換させる仕組み。現在日本で最も普及している再エネの一つです。風力発電風力エネルギーを電力に変換するシステムで風力タービンを回転させることで発生します。近年は洋上風力発電に期待が高まっています。中小水力発電水を落とす勢いで水車を廻し、発電する仕組みです。国内では近年、大規模より中小水力発電がメインとなりつつあります。地熱発電地中深くにあるマグマ活用し発電します。火山大国の日本でポテンシャルの高い再エネの一つです。バイオマス発電バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」のことです。バイオマスを使用したエネルギーがバイオマスエネルギーです。バイオマスエネルギーの重要性2022 年、再エネのなかでもバイオマスエネルギーは、多くのエネルギーを供給しています。エネルギー専門家の多くは、バイオエネルギーは電力だけではなく、熱や燃料などに利用可能で、欠かせない技術オプションと伝えています。木質バイオマスエネルギーとはバイオマスエネルギーのなかでも、木材からなるバイオマスを活用したものが「木質バイオマスエネルギー」です。木質バイオマスエネルギーとなる資源には、以下のような種類があります。林地残材伐採や造材の際に発生した枝、葉、樹皮など.製材工場残材製材工場で発生する背板、端材、のこ屑、樹皮など.建設発生木材建築解体時に発生する木材.薪薪として使われる木材.木材チップ木材をチップ状に加工したもの.木質ペレットをペレット状に加工したもの出典:木質バイオマス発電・熱利用をお考えの方へ(一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会)木質バイオマスに有効なソルガム近年木質バイオマスとして注目されているものにソルガムがあります。ソルガムとは、南アフリカ原産のイネ科の穀物で、世界5大穀物の一つです。日本では「ソルガムきび」という名で親しまれ、雑穀として飼料作物や緑肥用に栽培されています。一般的には食材として知名度が高いソルガムですが、バイオエタノールやペレットとして活用が可能です。ソルガムの特徴ソルガムは生育が早いため、カスケード(段階)的な利用が可能ソルガムは、日本国内でも3ヶ月ほどで大きく成育するため、効率よく利用できる高い環境適応能力を有し、厳しい耕作環境下でも生育が期待できるソルガムは、痩せた土地や干ばつになどに強く、厳しい耕作環境下でも生育が見込める。そのため、バイオマス発電燃料の安定供給に貢献する原料のひとつとして、期待の高い素材である。バイオマス燃料のなかでもCO2 吸収量・貯蓄量が高い。ソルガムはCO2 吸収量・貯蓄量が、ほかのバイオマス燃料と比較しても、数倍高いといわれているため、CO2排出量削減効果を期待できます。木質バイオマスエネルギーのメリット・デメリットここでは木質バイオマスのメリットとデメリットを具体的に解説していきます。木質バイオマスエネルギーのメリット木質バイオマスエネルギーの最大のメリットは、CO2排出量の抑制による地球温暖化の防止です。なかでも樹木が光合成で吸収したCO2を燃焼で再び排出し、全体として大気中のCO2濃度を増加させないという特徴は、カーボンニュートラルに大きな貢献が可能です。そのほか、廃棄されるはずだった木材を燃料として利用することで、資源の有効活用ができます。また地域経済活性化の視点からは、地域林業を活用したバイオマス発電による新たな雇用の促進など、多義に渡るメリットがあります。メリットの多いソルガム活用ソルガムを使用したバイオマス発電には多くの可能性があります。まず塩類土壌などの土壌条件が不良な場所でも栽培が可能です。さらに技術開発で品種改良が進めば、生産量の増加も見込めます。発電量が変動する太陽光や風力と比べて、ソルガムによるバイオマス発電は安定した出力が得られる可能性がおおいにあります。木質バイオマスエネルギーのデメリット木質バイオマスエネルギーのデメリットは、発電効率が低いこと、燃料の収集・運搬にコストがかかること、そして、木材資源の争奪や森林減少などの懸念が挙げられます。しかし、これらは今後の技術開発や適切な資源の運用や、森林資源保全の実施によって軽減することが可能です。木質バイオマスエネルギーの動向2012年に導入された再エネの固定価格買取制度(FIT制度)により、各地で木質バイオマスによる発電施設が新たに整備されました。2021年には、改定された森林・林業基本計画にでは、燃料材は主に質材の利用が見込まれました。日本は2030年までには、木質バイオマス発電や熱利用向けの燃料用チップへの国産材利用を促進することを目指しています。今後は、燃料材の需要増加に備えつつ、持続的な燃料供給を図るため、林地残材の収集・運搬の効率化を図ることが求められます。また未利用材の利用率を向上させることが重要です。木質バイオマスエネルギーの展望と支援策今後バイオマスエネルギーを促進していくためには、林業のイノベーションプラットフォームの構築や運営、林業機械の自動化・森林資源情報のデジタル化などが必要です。さらに木材生産高度技術者の育成、やデジタル林業戦略拠点つくり等も求められるでしょう。そのため政府は、以下のような支援策を実施しています。(2024年度版)各省庁支援策経済産業省木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業環境省地域脱炭素実現に向けた再エネの最大限導入のための計画づくり支援事業農林水産省·みどりの食糧システム戦略推進総合対策関連税制·再生可能エネルギー発電設備に係る課税標準の特例措置まとめ再エネの一つである木質バイオマスエネルギーについて、さまざまな角度から詳しく解説しました。カーボンニュートラル達成には、再エネの推進が必要です。木質バイオマスエネルギーは持続可能なエネルギーとして、将来性の高いエネルギーです。またソルガムはバイオマスエネルギーに有効な穀物として、期待が高まっています。本記事で木質バイオマスエネルギーについて知見を深め、持続可能なエネルギー導入を前向きに検討してはいかがでしょうか。