世界の五大穀物の1つとして、古くから各国で親しまれてきたソルガム。栄養素が豊富で、アレルゲンフリーである点から、スーパーフードとしても注目されています。一方ソルガムには、食用以外にもさまざまな活用方法があり、栽培管理のしやすさや生産性の高さ、さらにはバイオマス活用までできる点から、その持続可能性の高さも魅力的です。この記事では、ソルガムを使った、さまざまな取り組み事例を紹介します。ソルガムに関心のある方は、ぜひご一読ください。ソルガムは持続可能性の高い作物ソルガムは、アフリカ原産のイネ科モロコシ属の穀物です。世界の五大穀物の1つで、世界各地で伝統的に食されてきました。日本には室町時代(14世紀)に「高梁(コウリャン)」として、中国から伝来したといわれており、昔話「桃太郎」に出てくるきびだんごの原料としても知られています。一方で、ソルガムは、サステナブル(持続性可能性が高い)という一面を持ちます。その理由として、以下に挙げる以下4つの特徴があります。さまざまな活用方法がある栽培管理しやすい生産性が高いバイオマス活用できるくわしくは、「サステナブルな穀物「ソルガム」が解決しうる3つの社会問題」の記事をご参照ください。ここからは、日本国内外で広く行われている、ソルガム活用の取り組み事例を7つ、紹介していきます。長野市(循環型システム)長野県辰野町(栽培普及活動)株式会社トライル(ソーラーシェアリング)石巻市雄勝町モリウミアス(土づくり)愛媛県松山市 NPO法人刀(耕作放棄地の活用)資源循環・廃棄物研究センター(農地再生のための作物栽培とバイオガス化)JICA(バイオマス作物の生産と開発)地域に根付いたソルガム活用の取り組み【長野】出典:長野市「アレルゲンフリー・グルテンフリー 信州産ソルガム普及促進協会」長野では、国内でも早い時期から、ソルガムに着目した取り組みが行われてきました。長野はソルガム活用の取り組みについて、国内のパイオニアだといえるでしょう。2008年には、松本市にある信州大学において、「バイオマス利用を行う資源作物」として、ソルガムの研究が始まっています。その後2010年には、長野県主導で「きのこと家畜を育てるソルガムプロジェクト推進事業」という実証実験が始まり、2013年には長野市と信州大学が共同で「耕作放棄地の活用についての調査研究事業」を始めています。2021年には信州大学を中心に「信州そるがむで地域を元気にする会」が発足され、2024年現在に至るまで、ソルガムの活用や普及活動といった取り組みが精力的に行われています。参考: ★ソルガム成果報告.pdf長野県における取り組みは、県や市町村といった行政や、大学などの学術機関だけに留まらず、一般企業にも、広がりを見せています。そこで今回は、長野県内における、以下3つの取り組みを紹介します。長野市(循環型システム)長野県辰野町(栽培普及活動)株式会社トライル(ソーラーシェアリング)長野市(循環型システム)長野市での取り組みが始まったのは、長野県の実証実験が始まった3年後の2013年です。長野市と信州大学が共同で「耕作放棄地の活用についての調査研究事業」を行いました。事業が始まることになったきっかけは、長野市内に多い中山間地における、耕作放棄地の増加でした。地域課題の解決策として、ソルガムの活用に活路を見いだしたのです。長野市と信州大学による調査研究事業では、ソルガムの活用により、人や産業、エネルギーの創成などを含む、多角的な「地域自立型循環モデル」の構築を目指してきました。出典:長野市「ソルガムを育てて食べて脱炭素」令和6(2024)年時点では、「令和6年度長野市資源作物ソルガム栽培促進・バイオマス利用等調査」という、茎葉の活用や栽培に関する実証を行っています。実証では、以下のような調査事業が進められました。栽培を想定する品種の栽培体系の確立やマニュアル化生産者拡大手法の検討バイオマス利用におけるサプライチェーンの整理バイオマス利活用に向けた目標量や活用戦略の検討バイオマス利活用における供給可能量の分析参考:長野市「ソルガムを育てて食べて脱炭素」長野県辰野町(栽培普及活動)長野県にある辰野町の農業委員会では、令和4(2022)年から、遊休農地発生防止・解消活動の一環として、ソルガム栽培の普及活動に取り組んでいます。辰野町では毎年、農業委員会がソルガムの無農薬栽培をしており、収穫したソルガムの実と粉の無償配布を行っています。出典:辰野町「ソルガム通信」ソルガム栽培の普及活動では、一般の町民が、土づくりや播種作業、定植作業、刈り取り作業、脱穀・調整作業といった、一連の作業に参加することができます。栽培に関心のある町民は、種を分けてもらうこともできるそうです。株式会社トライル(ソーラーシェアリング)クリーンエネルギー事業を行う株式会社トライルでは、「荒廃農地の再生×ソーラーシェアリング」を目指して、2024年からソルガムの栽培に取り組んでいます。ソーラーシェアリングとは、営農活動をしている土地に太陽光発電設備を設置し、太陽の光を、作物と発電でシェアする仕組みのことです。出典:平良 諒(株式会社トライル)「松代町 ブルーベリー×太陽光発電 ソーラーシェアリング記録」株式会社トライルでは、前年の2023年から、長野市松代町で、ブルーベリーの栽培によるソーラーシェアリングを行っています。遊休農地の地主である事業者と、栽培を行う営農者が、ソーラーシェアリングという手法で手を組み、農地としてしか活用できない「農振地域」の再生を目指しています。地域に根付いたソルガム活用の取り組み【全国】ここまで、長野における、ソルガム活用の取り組みを紹介してきました。ここからは、長野以外のエリアにおける、地域に根付いたソルガム活用の取り組みを紹介します。今回紹介するのは、以下2つの取り組みです。石巻市雄勝町モリウミアス(土づくり)愛媛県松山市 NPO法人刀(耕作放棄地の活用)3-1.石巻市雄勝町モリウミアス(土づくり)東日本大震災で、津波の甚大な被害を受けた石巻市雄勝町に、元々は学校や商店街、民家が立ち並んでいた、旧市街地のエリアがあります。このエリアは災害危険区域に指定され、がれきが撤去された後は長い間、残土置き場として使用されていました。このエリアを復興したいと立ち上がったのが、雄勝町の住民たち。この土地の利活用について石巻市と調整を進め、2020年には農地としての利用が決定しました。2023年からは、土地を借り受けた民間5団体による官民連携事業「雄勝ガーデンパーク構想」の取り組みが始まっています。その事業者の1つが、雄勝町の高台に残っていた廃校を、こどもの複合体験施設として再生した「モリウミアス」です。出典:MORIUMIUS LUSAIL「ABOUTモリウミアスについて」モリウミアスが挑戦しているのは、自社農園ワイナリーの構築です。出典:「MORIUMIUS Farm&Wineryの土づくり日記① ~サステナブルな農業へのチャレンジ...」土壌を修復・改善しながら自然環境の回復を目指す「リジェネラティブ農業」を行うため、最も重要となる土づくりに、緑肥としてソルガムを活用しています。愛媛県松山市 NPO法人 刀(耕作放棄地の活用)愛媛県松山市のNPO法人「刀」は、過疎化の進む農山漁村地域に、ソルガム栽培などの新しい知識や技術の導入を行い、地域循環共生圏の創出を目指す事業に取り組んでいます。「令和4年度 農林水産省調査」には、愛媛県は荒廃農地が全国で3番目に多いとあります。荒廃農地は、耕作放棄地の中でも農地への復元が難しいといわれており、高齢化などによる人材不足が大きな原因の1つです。その耕作放棄地を活用して、最小限の労働力で効率的に管理する方法の1つとして挙がったのが、ソルガムの活用です。出典:NPO法人 刀「お知らせ」NPO法人 刀では、2024年から、愛媛県立西条農業高等学校との連携による、ソルガムの育成実証実験に取り組んでいます。国や国際機関におけるソルガム活用の取り組み最後に、国や国際機関で行われている、以下2つの取り組みを、紹介します。資源循環・廃棄物研究センター(農地再生のための作物栽培とバイオガス化)JICA(バイオマス作物の生産と開発)資源循環・廃棄物研究センター(農地再生のための作物栽培とバイオガス化)国立環境研究所の資源循環・廃棄物研究センターでは、福島県で、農地再生のためのソルガム栽培と、バイオガス化のシステム構築を目指して、実証実験を行っています。原発事故によって放射性物質の影響を受けた福島県では、多くの農地が、耕作(食用作物栽培)が行われないまま放置され、耕作放棄地となってしまっていました。出典:資源循環・廃棄物研究センター「農地再生のための作物栽培とバイオガス化を組み合わせた循環システム」表土が剥がれ、耕作が行われないまま数年間経過した農地は、土壌の養分が乏しいうえ、保水性や保肥性などにも問題があり、食用作物を栽培しようにも、品質や収量の点で困難で、農家が自ら管理することが難しい状況がありました。この状況を打開するために必要だったのが、食用作物の栽培を再開できるまでの間、手間とお金を最小限に抑え、農地を耕作しながら栽培、管理できる作物や技術でした。そこでセンターが検討したのが、飼料作物としてのソルガムの栽培と、ソルガムと畜牛の排泄物を原料とするメタン発酵からなるバイオガス化のシステムです。センターでは2018年6月から、富岡町でソルガムの栽培を試験的に始め、サイレージ化したソルガムのメタン発酵による、バイオガス生産と発電の実験に取り組みました。さまざまな研究を経て、ソルガムの安定したメタン発酵が実現し、2019年1月にはメタン発酵発電のデモンストレーションも催しています。出典:資源循環・廃棄物研究センター「農地再生のための作物栽培とバイオガス化を組み合わせた循環システム」JICA(バイオマス作物の生産と開発)JICA(独立行政法人国際協力機構 )では、2016~2022年にかけて、インドネシアにおけるバイオマス作物の生産と開発に関するプロジェクトに取り組んでいました。インドネシアはASEAN加盟国中で最大の経済規模を誇り、堅調な経済発展を遂げています。しかし一方で、増加を続ける人口に対応するエネルギーの安定的供給や、温室効果ガス排出の削減などの新たな課題を抱えていました。そこでインドネシア政府は、石油への依存を減らし、代替エネルギーや再生可能エネルギーの利用を促進する方針を掲げていました。インドネシアの大きな環境問題の1つに、熱帯雨林資源の大規模開発があります。無秩序な伐採や焼畑農業、森林火災、大規模プランテーションなどで森林は失われ、イネ科雑草の一種・アランアランという植物が繁茂する「荒廃草原」となってしまっています。そこで、JICAが始めたのが「熱帯荒廃草原の植生回復を通じたバイオマスエネルギーとマテリアル生産プロジェクト」です。出典:SATREPS 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム「熱帯荒廃草原の植生回復によるバイオマスエネルギーとマテリアル生産」このプロジェクトは、エネルギー作物(メインはソルガム)をアランアラン荒廃草原で生産、バイオマスの生産技術の開発を目的としていました。プロジェクトは、以下のような成果を挙げて、現在は終了しています。アランアラン荒廃草原におけるソルガムの栽培、生産性の向上ソルガム栽培が土壌微生物相と植生の多様性向上に貢献することの実証バイオエネルギー生産に適したソルガム系統の開発バイオ材料・バイオ燃料の製造技術の確立参考:JICA「終了時評価調査結果要約表」まとめ今回は、以下7つの、ソルガムを活用した取り組み事例を紹介しました。長野市(循環型システム)長野県辰野町(栽培普及活動)株式会社トライル(ソーラーシェアリング)石巻市雄勝町モリウミアス(土づくり)愛媛県松山市 NPO法人刀(耕作放棄地の活用)資源循環・廃棄物研究センター(農地再生のための作物栽培とバイオガス化)JICA(バイオマス作物の生産と開発)さまざまな国や機関、企業が、ソルガム活用に取り組んでいます。今後も取り組みが続き、あるいは増えていくことで、ソルガムはさまざまな社会問題から人類を救う、救世主のような存在になっていくかもしれません。