サトウキビは、バイオエタノールをはじめ、あらゆるバイオマス活用のできる資源作物で、国内外問わずさまざまな取り組みが行われています。そこで今回は、サトウキビのバイオマス活用の方法や、バイオマス作物としての強みなどを解説します。1.サトウキビとはサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物です。竹や笹のように節を持ち、茎に含まれる糖分から砂糖を抽出します。温暖な気候を好み、日本では沖縄県や鹿児島県の南西諸島を中心に、栽培が盛んです。特に沖縄では、サトウキビの栽培面積が県内の畑の約半分を占めています。沖縄の方言では「ウージ」と呼ばれ、古くから親しまれています。サトウキビは収穫するまでに、約1年~1年半ほどの期間がかかります。秋になると穂が付き、1~3月に収穫の最盛期を迎えます。約1㎏の重さのサトウキビ1本からできる砂糖の量は、約120gです。スーパーなどで見かける1㎏入りの上白糖を作るのに、約8本のサトウキビが必要となる計算です。2.日本国内におけるサトウキビと砂糖の現状砂糖は、一般家庭でも常備されることの多い調味料の一つです。砂糖の原材料には、サトウキビとてん菜(ビート)の2つがあり、国内で生産される砂糖の8割が北海道産のてん菜糖で、残り2割が鹿児島・沖縄県産の甘しゃ(サトウキビ)糖です。とはいえ、国内で消費される砂糖のうち、国産の割合は4割に過ぎず、6割は海外からの輸入です。主要な輸入国はオーストラリアがおよそ9割で、残り1割はタイです。日本では、国内産と輸出分を合わせて、年間およそ180万トンの砂糖が消費されています。これを一人あたりの消費量に換算すると年間15kgほどで、諸外国と比べて少ない部類です。さらに、国内における砂糖の消費量は、年々減少傾向にあります。出典:農林水産省「令和6砂糖年度における 砂糖及び異性化糖の需給見通し (第1回)」2023年度の調査によると、日本で消費される砂糖の、家庭での調味料としての利用は1割未満に過ぎません。一方で、菓子や清涼飲料水、パンなどの加工食品が半数を超えています。出典:農畜産業振興機構「令和5年度加糖調製品等の用途別消費動向に関する調査結果」3.サトウキビはあらゆるバイオマス活用が可能な作物バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、「再生可能な、生物由来の有機性資源」を指します。引用:九州農政局「バイオマスとは?」バイオマスは、生命と太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能で、新たなCO2を発生させずにエネルギーを生み出せる、カーボンニュートラルな資源です。サトウキビは、バイオマスな資源作物の一つで、以下のように活用できます。バイオエタノールバイオディーゼルバイオガス(バイオメタン)バイオプラスチックここでは、4種類のバイオマス活用について、紹介します。3-1.バイオエタノールバイオエタノールは、バイオマスを糖化・発酵させて製造する、液体燃料で、石油などを原料とする合成エタノールと同じように使えます。ガソリンに混ぜ、自動車燃料として使用すれば、カーボンニュートラルに貢献します。バイオエタノールの原料は、サトウキビやてん菜、ばれいしょ、トウモロコシなどです。サトウキビは、ほかの植物と比べて、耕地面積あたりのエタノール収量がずば抜けて多いという特長を持ちます。参考:農畜産業振興機構「砂糖産業と地球環境問題」出典:国際環境経済研究所「バイオ燃料の現状分析と将来展望」2020年時点で、世界で生産されるバイオエタノールのうち67%が、サトウキビによるものでした。サトウキビの世界最大の生産国である、ブラジルの影響を大きく受けた結果です。3-2.バイオディーゼルバイオディーゼルは、植物性油脂とメタノールの化学反応によって精製される液体燃料で、主に軽油の代替燃料として利用されています。乗用車の燃料として使われることの多いバイオエタノールとは違い、主に鉄道や船舶、トラック、バス、重機などの乗り物や、発電機やボイラーの燃料として使われます。バイオディーゼルの主な原料となるのは、菜種油やパーム油、大豆などで、日本では廃食油を主な原料としています。出典:国際環境経済研究所「バイオ燃料の現状分析と将来展望」アメリカやブラジル、アルゼンチンなどでは、自国生産の大豆を原料としたバイオディーゼルの供給に対し、税制優遇を設けるなどして、導入を推進しています。現状、サトウキビやトウモロコシは、バイオディーゼルの原料としてあまり活用されていませんが、日本を含め各国で研究や実証実験が進められているところです。3-3.バイオガス(バイオメタン)バイオガスは、家畜の糞尿や、残さ、生ごみなどの食品廃棄物を、微生物の働きによってメタン発酵させて製造する気体燃料で、主に発電の燃料として利用されます。サトウキビを加工する際に生じる、茎や葉などの大量の廃棄物(残さ)も原料になります。ブラジルではサトウキビ由来のバイオガスの生産が盛んで、2023年夏時点で750以上のバイオガスプラントが稼働しており、今後5年間で新たに65のプラント稼働を予定しています。バイオメタンは、バイオガスの成分の4割を占めるCO2などを除去して、メタンの純度を高めたもので、天然ガスと同じように利用できます2025年2月には、日本の豊田通商株式会社と東邦ガス株式会社が、ブラジルのFerrari Agroindústria S.A(フェラーリ・アグロインダストリア)とSebigas Cótica Bioenergia LTDA(セビガス・コティカ・バイオエネルギア)の4社で、ブラジルにおけるバイオメタン生産実証に向けた、共同開発契約を締結しています。この契約は、サトウキビの廃棄物を原料としたバイオメタンの生産を目指すもので、4社は、実証プラントの建設・運営に向けた検討を始めています。引用:東邦ガス「ブラジルでのサトウキビ廃棄物由来のバイオメタン生産実証に向けた検討開始について」3-4.バイオプラスチックバイオプラスチックは、石油や天然ガス、石炭のような枯渇性の資源ではなく、再生可能な植物資源などから造られるプラスチックで、バイオエタノールから生成されます。サトウキビは、「バイオマスポリエチレン」や「グリーンポリエチレン」と呼ばれる、バイオプラスチックの原料として、主にポリ袋などに加工されています。出典:袋の王国本店「バイオマスマーク入りレジ袋」日本では2020年7月から「レジ袋有料化義務化」が始まりましたが、バイオマス素材で作られており、バイオマスマークの入った袋であれば、無料配布が可能です。4.バイオマス作物としてのサトウキビの強み「3.サトウキビはあらゆるバイオマス活用が可能な作物」で述べた通り、サトウキビは、さまざまなバイオマス活用ができる資源作物です。サトウキビは、バイオマス活用に適した、植物としての特性を持っています。そこでここからは、バイオマス作物としてのサトウキビならではの強みを3つ紹介します。CO2吸収能力が高い余すことなく使える自然災害に強い4-1.CO2吸収能力が高い前述した通り、バイオマスは生命と太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能で、新たなCO2を発生させずにエネルギーを生み出せる、カーボンニュートラルな資源です。バイオマスの仕組みは、資源となる植物が太陽エネルギーを光合成によってでんぷんに変え、そこから得られる糖分をバイオマスエネルギーとして活用するというものです。重要なのは、植物が光合成を行う際、空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する点です。バイオマスをエネルギー化するためには、資源を燃やす必要がありますが、「排出されるCO2は、吸収したCO2と差し引きゼロ」という解釈ができます。出典:中部電力「バイオマス発電のしくみ - 再生可能エネルギー発電について」サトウキビは光合成の仕組み上、C4植物に含まれます。C4植物とは、光合成の初期段階で、炭素4個の化合物を生成する植物のことです。イネや麦、てん菜など、陸上植物の大半を占めるC3植物と比べ、C4植物は光合成能率に優れており、大気中のCO2吸収体として優れた能力を発揮します。4-2.余すことなく使えるサトウキビを砂糖に製造する工程で、「バガス」と呼ばれる茎や葉などの絞りカス(残さ)が大量に発生します。しかし、このバガスは、製糖工場内のボイラーの燃料として使うことができ、そこから得られた電力は、工場で自家利用できます。ほかにも、堆肥や、発酵飼料、紙や衣料品、建築資材の原料として、活用されています。実際、沖縄にある「ゆがふ製糖」では、以下のような事業を実践しています。出典:農林水産省「バガスの有効活用に より資源循環型農業を 実現 農業者に肥料・たい肥 を供給 ・工場の燃料代等削減」ここでは、バガスをボイラー用の燃料(84%)、堆肥(13%)、飼料(3%)として再利用しています。バガスと家畜の糞尿から得た堆肥は、サトウキビの生産に使われており、資源が循環していることが分かります。4-3.自然災害に強い国内でサトウキビが栽培されている、鹿児島県や沖縄県は、台風の被害が大きい地域です。しかし、サトウキビは倒伏性に優れており、強風に強いという特長があります。反対に、干ばつなどの水不足によって、一度葉が枯れてしまっても、雨が降りさえすれば、また新しい葉っぱをつけ、光合成の能力を維持する働きも持ちます。国際農研ほか2社は、台風や干ばつに対するサトウキビの耐性を向上させるための共同研究を行い、「深植え栽培技術」を開発しました。出典:ヤンマーホールディングス株式会社のプレスリリース「サトウキビの生産性改善で環境負荷を軽減する深植え栽培技術を国際農研との共同研究開発で実現」2025年2月からは、ヤンマーアグリ株式会社が、フィリピンにおいてサトウキビの深植え栽培を実現する、部分深耕機および深植え機の販売を始めています。参考:国際農林水産業研究センター「サトウキビの持続的生産性を実現する深植え栽培技術の開発―実用化に向けてタイとフィリピンで技術の有効性を実証―」5.まとめサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物です。国内で生産される砂糖の2割が、鹿児島・沖縄県産の甘しゃ(サトウキビ)糖です。サトウキビは、バイオマスな資源作物の一つで、以下のように活用できます。バイオエタノールバイオディーゼルバイオガス(バイオメタン)バイオプラスチック以下のような強みがあることから、サトウキビはバイオマス作物に適しているといえます。CO2吸収能力が高い余すことなく使える自然災害に強い