バガスとは、砂糖の原料となるサトウキビを加工する際に発生する、茎や葉などの絞りカス(残さ)のことです。バガスはサトウキビ全体の約25~30%を占め、世界中で大量に排出されています。今回はこのバガスの二次利用方法を7つ、紹介していきます。1.サトウキビとはサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物です。竹や笹のように節を持ち、茎に含まれる糖分から砂糖を抽出します。温暖な気候を好み、日本では沖縄県や鹿児島県の南西諸島を中心に、栽培が盛んです。特に沖縄では、サトウキビの栽培面積が県内の畑の約半分を占めており、県内で最も多く栽培されている作物です。沖縄の方言では「ウージ」と呼ばれ、古くから親しまれています。サトウキビは収穫までに、約1年~1年半ほどの期間がかかります。秋になると穂が付き、1~3月に収穫の最盛期を迎えます。収穫されたサトウキビは、トラックいっぱいに積まれ、製糖工場に運ばれます。約1㎏の重さのサトウキビ1本からできる砂糖の量は、約120gです。スーパーなどで見かける1㎏入りの上白糖を作るのに、約8本のサトウキビが必要となる計算です。2.サトウキビから生じる「バガス」とはバガスとは、サトウキビを砂糖に製造する工程で発生する、茎や葉などの絞りカス(残さ)のことです。製糖工場から排出されるバガスは、サトウキビ全体の約25~30%を占めます。国内に限っても、2023年時点で年間約35万トン(沖縄県では約20万トン、鹿児島県では約14万トン)のバガスが排出されています。世界規模では、年間およそ1億トンものバガスが排出されていると考えられています。バガスには、さまざまな二次利用の方法がありますが、再利用するにしても、バガスの品質を損なわないためには、適切な保管場所と管理方法が必要です。バガスを保管するための土地やスペースを確保するのは、そう簡単なことではありません。莫大な量のバガスの処理方法について、今も解決策が模索されているところです。3.バガスの主な二次利用方法【エネルギー以外】前述した通り、サトウキビから砂糖を抽出すると、バガスという大量の残さが発生しますここからは、バガスの二次利用の方法について紹介していきます。まずは、電気や燃料といったエネルギー以外の使い道、4つを取り上げます。堆肥飼料原料パルプ食品3-1.堆肥サトウキビの残さであるバガスやフィルターケーキ(汚泥などの沈殿物)は、堆肥として活用できます。奄美群島の中央に位置する徳之島における実験では、「化学肥料とともにバガス堆肥を長期連用した場合、サトウキビの収量が増加し、土壌中の全炭素や全窒素、交換性カリウム含量が増加する」ことが分かり、バガスの堆肥としての有用性が明らかになっています。また、バガスと牛ふん堆肥を併用することで、化学肥料の量を栽培基準より30%ほど削減できる可能性があることも分かっています。参考:農畜産業振興機構「サトウキビの持続的生産技術の開発に向けた製糖副産物・堆肥連用農家圃場の土壌調査およびバガス炭化物の利用可能性の評価」サトウキビは離島で栽培されることが多いため、島内で栽培から廃棄物の処理までを完結させることが、環境調和型の持続的な生産を実現させるための最善策です。この点からいっても、有機資源を堆肥として、新たなサトウキビの栽培に還元できるこの方法は、とても有意義だといえます。出典:三和メック「発酵バガスペレット」バガスを糖蜜で乳酸発酵させ、ペレット化することで、土壌改良の効果を上げた「発酵バガスペレット」も、農業資材として販売されています。3-2.飼料原料バガスは飼料の原料としても使えますが、これまではあまり活用されていませんでした。というのも、サトウキビの繊維は消化率が悪く、栄養面の価値があまりありません。さらには、牛は消化率の悪い飼料を本能的に避けるため、バガスの嗜好性が低かったのです。しかし近年、飼料の主な原料だった稲の品質の低下や品不足が続き、良質な稲ワラの確保が難しくなったことから、稲に代わる飼料として、バガスが注目されるようになりました。最近では、微生物処理を施すことで、消化性や嗜好性を改善した「発酵バガス」などが開発され、肉牛農家を中心に利用されることが増えています。バガスの飼料は、牛の腸内発酵に良い影響を与えることも分かっています。牛の消化機能を向上させ、糞の水分を低下させるため、肉牛の軟便や下痢を防ぐことができます。3-3.パルプバガスはパルプとして、製紙原料にも使えます。バガスパルプは、紙製品や包装材、食品容器やパッケージ、ペーパータオルなどに使用されています。出典:地球と未来の環境基金「バガス(非木材紙)普及」バガスの繊維は丈夫で、耐水性・耐油性に優れるため、プラスチック製であることが多い食品容器やパッケージの代替品として、特に有用です。本来、紙の原料であるパルプは木から作られますが、廃棄物であるバガスを活用することで森林伐採量を減らせます。結果として、森林保護やCO2削減に貢献します。木材パルプとの配合も可能で、バガスパルプと木材パルプを半分ずつ使った製品なども作られています。3-4.食品バガスは非常に硬く丈夫な繊維で、これまで食品としてはほぼ活用されていませんでした。しかし、2004年にバガスを原料とした機能性食物繊維を製造する技術が開発されたのをきっかけに、機能性食物繊維「醗酵バガッセ」が開発されました。醗酵バガッセは、日常生活で摂取しにくい食物繊維が豊富で、善玉菌の栄養源となるオリゴ糖や、抗酸化作用のあるポリフェノールも含んでいます。それを受けて「沖縄ウコン堂」が考案、発売したのが、醗酵バガッセをご飯に炊き込む「さとうきびごはんの素」です。出典:沖縄ウコン堂「【楽天市場】さとうきびごはんの素」粉末をお米に混ぜて炊くだけで、バガスの栄養効果が得られ、ご飯がモチモチした食感、香ばしい味に炊きあがります。パンや焼き菓子、普段のおかずにも使えます。現在では、飲食店で「さとうきびごはん」として提供されるほか、一般向けにも販売されており、購入が可能です。4.バガスのエネルギーとしての二次利用事例バガスは、燃料や電力などのエネルギーとしても二次利用できます。今回は、以下3つのエネルギーとしての活用方法と、具体的な事例について、解説します。製糖工場におけるボイラー燃料(日本国内)バイオマス発電(ブラジル)バイオエタノール(世界各国)4-1.製糖工場におけるボイラー燃料(日本国内)現状、製糖工場から発生するバガスの80~90%ほどが、製糖工場のボイラー燃料として利用されています。仕組みはとてもシンプルで、ボイラーから発生する、熱と蒸気をそれぞれ活用します。1つ目は、ボイラーから発生する熱を、搾汁液を煮詰める工程などで利用します。2つ目は、ボイラーから発生する蒸気で発電し、電気を工場内の機械の駆動に利用します。出典:農林水産省「バガスの有効活用に より資源循環型農業を 実現 農業者に肥料・たい肥 を供給 ・工場の燃料代等削減」バガスを燃焼した後に残る「バガス灰」も、肥料として利用できます。種子島でサトウキビの製糖を行っている「新光製糖株式会社」では、バガス灰をフィルターケーキ(沈澱物)と混合、特殊肥料として販売し、サトウキビ畑に還元しています。4-2.バイオマス発電(ブラジル)世界最大のサトウキビ生産国・ブラジルでも「4-1.製糖工場におけるボイラー燃料」で紹介した日本と同じように、バガスの製糖工場における熱や電力の活用が行われていました。しかし、ブラジルでは、ボイラーの高効率化等による発電能力増加をきっかけに、自家発電に留まらず、電力を商業的に供給する企業が増加しています。ブラジルサトウキビ産業協会(UNICA)によると、2023年時点で、「同国の砂糖・エタノール産業において23年に稼働した360工場のうち、249工場が売電して」いるそうです。引用:農畜産業振興機構「ブラジル砂糖産業の現在と未来~砂糖とエタノールの二本の柱~(後編)」出典:農畜産業振興「ブラジル砂糖産業の現在と未来~砂糖とエタノールの二本の柱~(後編)」水資源の豊富なブラジルでは、水力発電が電源の7割程度を占めており、乾季には干ばつなどで電力不足となることも少なくありません。サトウキビの収穫は、ちょうど降水量の少ない時期に行われるため、バガスなどのサトウキビ由来資源による発電は、ブラジルの発電需要にマッチしていたのです。結果として、バイオマス発電はブラジルの電力供給量の5%程度を担い、2023年には2万8137GWhと、水力、風力に次いで3番目の電力供給量を誇るようになりました。出典:農畜産業振興「ブラジル砂糖産業の現在と未来~砂糖とエタノールの二本の柱~(後編)」ブラジルでは、バイオマスによる発電量のおよそ75%を、サトウキビ由来資源による発電が占めているといいます。4-3.バイオエタノール(世界各国)バイオエタノールは、サトウキビやてん菜やばれいしょ、トウモロコシなどの植物資源を糖化・発酵させて製造する液体燃料で、石油などを原料とする合成エタノールと同じように利用できます。ガソリンに混ぜ、自動車燃料としても使用できるので、液体燃料の脱炭素化に貢献します。すでにバイオエタノールの導入が進められている国も多く、例えば、ブラジルや中国、アメリカ、EUなどの国では、すでに導入拡大が進んでいます。出典:経済産業省「自動車用燃料(ガソリン)への バイオエタノールの導入拡大について」サトウキビの残さ(絞りカス)であるバガスからも、バイオエタノールを生成できます。2018年、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、東レ、三井製糖、三井物産の3社と合同で、バガスを原料とする世界最大規模の実証プラントをタイに建設しました。出典:NEDO「タイでサトウキビ搾りかすからエタノール原料などを製造する実証プラントが完成 」2022年までに、バガスからバイオエタノールの原料となるセルロース糖のほか、ポリフェノール、オリゴ糖といった高付加価値品を併産する評価・検証を行い、従来よりも50%以上省エネで製造するシステムの実証に成功しました。今後は、タイ国内でシステムの普及を目指すとしています。参考:NEDO「タイでサトウキビ搾りかすからエタノール原料などを製造する実証プラントが完成 」「従来よりも50%以上省エネでサトウキビの搾りかすから糖を製造する実証に成功」5.まとめサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物です。「バガス」は、サトウキビを砂糖に製造する工程で発生する、茎や葉などの絞りカス(残さ)で、製糖工場からはサトウキビ全体の約25~30%を占めるバガスが排出されますバガスはさまざまな二次利用が可能で、例えば以下4つのように活用されています。堆肥飼料原料パルプ食品ほかにも、国内外で、バイオマスエネルギーとして活用されている事例があります。製糖工場におけるボイラー燃料(日本国内)バイオマス発電(ブラジル)バイオエタノール(世界各国)