自動車の燃料として、サトウキビからつくられるバイオ燃料が注目されているのをご存じでしょうか。経済産業省は、トウモロコシやサトウキビなどから作るバイオマス燃料をガソリンに10%混ぜた混合燃料を、2028年度から先行導入する計画です。 今回はバイオマス燃料について、注目されている背景や企業の開発事例などを合わせて解説しますので、ぜひご一読ください。そもそもバイオマスとはバイオマスとは、「生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」です。化石燃料の代替エネルギーや、地球温暖化対策に貢献するエコな次世代のエネルギーとして注目されています。バイオマス燃料の種類バイオマスの対象は多義に渡るため、区分の仕方も多様化しています。ここではバイオマス燃料について解説していきましょう。木質バイオマス森林から出る枝や葉、製材工場から出る樹皮や端材、住宅の解体材などを燃焼させて熱エネルギーを発生させ、チップやペレットなどの燃料に加工して利用するバイオエタノールトウモロコシやサトウキビなどの植物資源を原料に、発酵・蒸留などのプロセスを経て製造し、自動車燃料などに利用するバイオディーゼル菜種油などの植物由来のや廃食用油などをメチルエステル化して製造され、主にディーゼルエンジンに使用されるバイオガス微生物の力(メタン発酵)を利用し、食べ残しなどの生ごみや紙ごみ、家畜のふん尿などから発生するガス(メタン)を活用し発電に利用するバイオマス燃料が注目される背景バイオマス燃料が注目されている背景はさまざまです。以下にバイオマス燃料が注目されている主な要因を挙げましょう。地球温暖化対策バイオマス燃料は燃焼時にCO2を発生しますが、植物由来のものであれば成長過程で光合成によって吸収されたCO2を再利用することになるため、実質的に大気中のCO2を増やさないと捉えることが可能です。そのためカーボンニュートラルに貢献可能な燃料として注目されています。エネルギー源の多様化化石燃料はいずれ枯渇します。また自国での生産が少ないため海外への依存度も高く、エネルギー安全保障上の問題もあります。日本のエネルギー源の多様化は急を要する課題です。そのため自国の資源で再生可能なバイオマス燃料の活用はエネルギー多様化の実現に貢献します。地域活性化地域の未利用資源(間伐材や農作物残渣など)を有効活用することで、地域経済の活性化や新たな産業創出に繋がることが期待されています。既存設備の活用バイオマス燃料を石炭発電用のボイラーで混焼する場合、既存設備をそのまま活用可能で、コストを低減に繋がります。なぜ脱炭素化が重要なのか地球温暖化をはじめとした気候変動対策は、なぜ重要なのでしょうか。温室効果ガス排出による気候変動リスクは年々上昇しており、すでに世界の年平均気温は100年あたり0.74℃の割合で上昇しています。CO2の累積排出量と世界の平均気温の上昇は、ほぼ比例関係にあることも伝えられています。もし世界の平均気温が、いまより2℃上昇したら、人間が地球上で生活していくことは困難です。引用:気象庁「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2022年)」バイオマス燃料のメリットここではバイオマス燃料のメリットを詳しく解説します。カーボンニュートラル実現に貢献バイオマス燃料は、燃焼すると、原料となる植物が成長過程で吸収したのと同量のCO2を大気中に放出するという特性を持ちます。つまりバイオマス燃料は大気中のCO2濃度が実質変化しないカーボンニュートラルな燃料です。バイオマス燃料を活用することは、脱炭素化を推進するカーボンニュートラル達成貢献に繋がります。再生可能エネルギーの推進バイオマス燃料は、再生可能エネルギーのひとつのため、再生可能エネルギーの普及促進にも繋がります。日本のエネルギー政策の指針となる「第7次エネルギー基本計画」では2040年度の電源構成(見通し)における再生可能エネルギーの内訳は、太陽光22~29%、風力4~8%、水力8~10%、地熱1~2%、バイオマス5~6%となっています。安定供給バイオマス燃料は、太陽光や風力のように天候に左右されず、安定的に供給できるため、エネルギー源として高い期待があります。資源の有効活用未利用のバイオマス資源を有効活用することで、資源の浪費を抑制し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の構築を推進します。エネルギー安全保障への貢献バイオマス燃料の普及促進は、石油代替エネルギーの生産による原油価格高騰への対応が可能です。バイオマス燃料導入の推進は、海外からの輸入を減らし、エネルギー供給源の多様化によるエネルギー安全保障の道を開きますバイオマス燃料のデメリットここではバイオマス燃料のデメリットを解説していきます。コストがかかるバイオマス燃料は、資源の収集、運搬、加工にコストがかかります。特に、廃棄物系バイオマスの場合、分散した原料の収集や運搬が難しく、コストが高くなりがちです。変換効率の低さバイオマス発電のエネルギー変換効率は、他の再生可能エネルギーと比較して低い傾向があります。例えば、木質バイオマス発電の発電効率は20~25%程度です。バイオマス燃料のひとつサトウキビとは?それではここから、バイオマス燃料の原料のひとつであるサトウキビについて詳しく解説していきましょう。バイオマス燃料として有効であるサトウキビの特徴光合成の能力が高い。そのためサトウキビは、大気中のCO2を多く吸収できる。CO2を実質ゼロにできる。理由として成長過程の光合成作用でCO2を多く吸収するため、廃棄物として焼却される際にCO2排出量は、光合成によって吸収した大気中のCO2量と同等であるから。2の理由により、カーボンニュートラルに貢献できる。安定したエネルギー源となり得る。サトウキビは生産性が高いので安定下収穫が可能。サトウキビ生産国ランキング2023年の世界のサトウキビ生産量1位はブラジルの782,585,836トン、2位はインドの490,533,351トンです。10位までのランキングは以下になります。3.中国4.タイ5.パキスタン6.メキシコ7.インドネシア8.オーストラリア9.コロンビア10.米国バイオエタノールの精製方法バイオマス燃料の一つであるバイオエタノールの原料は主に、トウモロコシやサツマイモ、ムギ、タピオカなどのデンプン質原料と、サトウキビやテンサイなどの糖質原料が使われます。これらの植物に含まれる糖分を微生物によって発酵させ、蒸留してエタノールを作ります。石油などから作られる合成エタノールと、物理化学的性状はまったく同じです。そのため自動車の燃料として特にバイオエタノールは、ガソリンと混合して自動車燃料として利用可能です。そのため、今後のモビリティ分野の新たなクリーンエネルギーとして期待されているのです。自動車の燃料としても注目バイオエタノールが自動車の燃料として注目されている背景を詳しく解説していきましょう。多様化する自動車に対応近年、電気自動車(EV)をはじめとした自動車の多様化が進みました。日本の自動車産業は、技術課題や世界市場の動向などを見据え、「多様な選択肢」を通じてカーボンニュートラル実現を目指す「マルチパスウェイ戦略」が基本です。「マルチパスウェイ戦略」とは、自動車の電動化進展に対応するため、電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)など、多様な自動車を開発・販売する戦略のことです。地域ごとのニーズやインフラ状況に応じて、最適な選択肢を提供することが狙いです。切り札となるバイオエタノールへの期待液体燃料におけるカーボンニュートラル実現の切り札としてバイオエタノールは大きな期待があります。バイオエタノールは従来の液体燃料の特徴があるため、現行モデルのエンジン車や、ガソリンスタンド、運搬用タンクローリーなどに使用することが可能です。また、原料がサトウキビやトウモロコシのため、安定調達や大量生産できるというメリットもあります。ほかにも、バイオエタノールには、すでに製造技術が確立しているという強みがあるため、海外では、ガソリンへのバイオエタノール混合利用が促進しています。世界では、「E10」(バイオエタノール10%混合のこと)を掲げている国が多く存在し、インドでは2025年までに全土で「E20」、またブラジルは2030年までに「E30」の実現に向かっています。このようにバイオエタノールの導入は世界的に進んでいます。海外や国内の取組事例海外ではサトウキビの生産量の多いブラジルで、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオガスなどの生産比率を拡大する、国家バイオ燃料政策 「RenovaBio(レノバビオ)」を進めています。2015年以降、ブラジルでのガソリンへのエタノール混合率は27%となっています。出典:各国・地域におけるバイオ燃料の導入状況(一般財団法人カーボンニュートラル燃料技術センター 調査国際部)日本では、バイオエタノールは、既に製造技術が確立されており、製造コストも合成燃料と比べて安価になります。そのため、エネルギー供給構造高度化法(高度化法)に基づく告示において、石油精製事業者に対し、 ガソリン代替用途でのバイオエタノールの利用(原油換算50万KL)を義務付けています。2023年にはサトウキビ由来の次世代バイオエタノールの2028~2032年度までの利用目標設定を進めています。出典:自動車用燃料(ガソリン)への バイオエタノールの導入拡大について(経済産業省)まとめ自動車の燃料として、注目されているバイオマス燃料について解説しました。自動車に使用されるバイオエタノールは安価で大量生産が可能なため、今後の活用が期待されています。本記事でバイオマス燃料の知見を深め、次世代エネルギーの活用を考えてみてはいかがでしょうか。