サトウキビは、砂糖の原料となる植物です。しかし現在、バイオエタノールをはじめ、バイオマス活用のできる資源作物としても、熱い視線を集めています。今回は、砂糖の原料としてのサトウキビに目を向け、その歴史や現状、作り方まで、幅広く解説します。1.サトウキビとはサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物です。竹や笹のように節を持ち、茎に含まれる糖分から砂糖を抽出します。温暖な気候を好み、日本では沖縄県や鹿児島県の南西諸島を中心に栽培されています。特に沖縄では、サトウキビの栽培面積が県内の畑の約半分を占めています。沖縄の方言で、サトウキビは「ウージ」と呼ばれ、古くから親しまれています。2.サトウキビから砂糖ができるまで砂糖の主な原料の1つ、サトウキビ。ここでは、サトウキビから砂糖ができるまでの、流れや工程を見ていきましょう。2-1.サトウキビが収穫されるまで日本国内のサトウキビの主な産地は、沖縄と鹿児島の奄美地方です。これらの地域では、1~3月に苗の植え付けをする「春植え」が多く、収穫期は翌1~4月です。春植えの場合、収穫まで1年と育成期間が短いため、収穫量が少ない傾向にあります。2年目からは収穫後の根株(親株)を残して発芽させる「株出し(宿根)栽培」に切り替えるのが一般的です。株出し栽培では、植え付けの手間が省け、発芽のタイミングも早くなるので、春植えよりも収穫量の増加が期待できます。株出し栽培の収穫時期は、春植えより少し早い12~翌3月ごろです。収穫時のサトウキビは、2~3mほどの大きさになっています昔は「倒し鍬」という道具で刈り取りながら切り倒していく「手刈り」が主流でしたが、最近では刈り倒しや裁断もできるハーベスタ(収穫機械)を導入する生産者が増えています。出典:農林水産省「砂糖の原料 「てん菜」と「さとうきび」の生産現場をのぞいてみよう!」直近令和5/6年期の「さとうきび収穫機械稼働実績」によると、収穫されたサトウキビのうち88.8%とおよそ9割が、ハーベスタによって収穫されていることが分かっています。2-2.サトウキビから原料糖ができるまで次に、サトウキビから「原料糖」ができるまでの流れです。原料糖とは、サトウキビを育てる畑近くの工場で精製される砂糖の原料となるもので、精製度が低いことから「粗糖」や「分蜜糖」とも呼ばれます。出典:農林水産省「砂糖の原料 「てん菜」と「さとうきび」の生産現場をのぞいてみよう!」サトウキビが収穫されたら、運搬業者がトラックに積み、製糖工場へと運びます。出典:沖縄いちば「さとうきびの収穫時期です。」例えば沖縄県内には、2021年時点で「原料糖である分蜜糖の工場が9か所、含蜜糖(黒糖)工場が8か所」あったそうです。上白糖やグラニュー糖の原料となるのは「分蜜糖」で、黒砂糖はサトウキビの搾り汁を煮詰めて固めた、含蜜糖(糖蜜を結晶と分離せずに、そのまま固めた砂糖)です。工場に運びこまれたサトウキビは、裁断機で細かく砕かれます。その後、圧搾機で「糖汁」を搾りだします。出典:農林水産省「砂糖の原料 「てん菜」と「さとうきび」の生産現場をのぞいてみよう!」糖汁をジュースヒーターで加熱し、不純物を沈殿させた後、上澄み液を回収します。この糖汁は「清浄汁」と呼ばれます。清浄汁に加熱を繰り返し、水分を蒸発させて作った、濃度の高い「シラップ」に、核となる砂糖の結晶を加えてさらに煮詰めます。出典:農林水産省「砂糖の原料 「てん菜」と「さとうきび」の生産現場をのぞいてみよう!」砂糖の結晶と蜜が混ざった「白下(しろした)」を遠心分離器にかけ、糖を分離させます。こうしてできた「原料糖」はビンに詰められて、県外の精製工場へと運ばれます。出典:農林水産省「砂糖の原料 「てん菜」と「さとうきび」の生産現場をのぞいてみよう!」2-3.原料糖から精製糖ができるまで製糖工場ではまず、原料糖の結晶の表面にある不純物を洗って取り除きます。表面がきれいになったら、温水に溶かして「糖液」を作ります。次に、石灰や活性炭を使って、糖液の不純物を取り除きます。その後、糖液を真空状態にして、濃縮し、結晶を成長させます。最後に遠心分離機にかけて、結晶と糖液の混合物から結晶を取り出し、乾燥させると、グラニュー糖や上白糖、三温糖のような精製糖が完成します。参考:農畜産業振興機構「原料糖から精製糖ができるまで」約1kgの重さのサトウキビ1本からできる砂糖の量は、約120gです。スーパーなどで見かける1kg入りの上白糖を作るのに、約8本のサトウキビが必要となります。3.サトウキビと砂糖の歴史サトウキビの栽培や砂糖の製造が始まったのは、紀元前。サトウキビの栽培に関する最も古い記録は、紀元前4世紀ごろのインドへの遠征録だといわれています。歴史的に、サトウキビと砂糖の発祥地は、インドだと考えられています。インドから、隣国であるペルシャやエジプト、さらには中国などへと広く伝わっていきました。11世紀から13世紀にかけて、ヨーロッパやアジア諸国にも伝播していきます。日本に砂糖が伝わったのは、それよりも早い8世紀ごろの奈良時代で、それから鎌倉時代初期に至るまで、薬として扱われる貴重なものでした。その後、室町時代にかけて、当時の中国、明朝との貿易が盛んになると、砂糖の輸入も始まり、人々にとって身近な存在となりました。このころ、砂糖を使った饅頭や羊羹などのお菓子が作られ始めます。17世紀に入ると、薩摩国大島郡(現在の奄美大島)や琉球国(現在の沖縄)で黒砂糖が製造されるようになり、サトウキビの栽培も始まりました。4.サトウキビと砂糖の現状サトウキビを原料とする砂糖の作り方、砂糖の歴史を見てきたところで、次は現代の砂糖事情について、見ていきたいと思います。海外における状況と、日本における状況の2つの視点から見ていきましょう。4-1.海外における状況現在、世界で一番砂糖を生産しているのはブラジルで、2位はインドです。インドは、世界で一番砂糖を消費している国でもあり、生産量と消費量がほとんど同じです。生産量3位はEUで、消費量は世界2位、続いて生産量4位がタイ、生産量5位が中国です。出典:農畜産業振興機構「世界の砂糖需給(2024年6月時点予測)」このように、砂糖の生産量と消費量の多い国はほとんど同じで、砂糖の生産も消費も、世界の一部の国に限定して盛んだという傾向があると分かります。出典:農畜産業振興機構「世界の砂糖需給(2024年6月時点予測)」現在、砂糖は食品、飲料、製薬業界など、あらゆる分野で加工されて使われています。生産量の増加や、加工食品の需要の増加に後押しされる形で、今後、世界の砂糖需要は増加し続けるのではないかと予想されています。現状、砂糖の世界貿易が増加傾向にあるのは、特にブラジル、インド、タイ、オーストラリアなどの国々です。4-2.国内における状況一方、日本国内での生産量と需要量は、ブラジルやインド、EU、タイなどと比べると、非常に少ないといえます。砂糖の原材料には、サトウキビとてん菜(ビート)の2つがあり、日本で生産される砂糖の8割が北海道産のてん菜糖、残りの2割が鹿児島・沖縄県産の甘しゃ(サトウキビ)糖です。とはいえ、国内で消費される砂糖のうち、国産の割合は4割に過ぎず、6割は海外からの輸入です。主要な輸入国はオーストラリアがおよそ9割で、残り1割はタイです。日本では、国内産と輸出分を合わせて、年間およそ180万トンの砂糖が消費されています。これを一人あたりの消費量に換算すると年間15kgほどで、やはり諸外国と比べて少ない部類です。さらに、国内における砂糖の消費量は、年々減少傾向にあります。出典:農林水産省「令和6砂糖年度における 砂糖及び異性化糖の需給見通し (第1回)」2023年度の調査によると、日本で消費される砂糖の、家庭での調味料としての利用は1割未満に過ぎません。一方で、菓子や清涼飲料水、パンなどの加工食品は半数を超えています。出典:農畜産業振興機構「令和5年度加糖調製品等の用途別消費動向に関する調査結果」5.サトウキビはバイオマス作物としても優秀サトウキビは、バイオマスな資源作物で、バイオエネルギーやプラスチックの原料としても活用できる、地球環境に優しい植物です。近年特に注目を集めているのはサトウキビを原料とした、バイオエタノールです。バイオエタノールは、バイオマスを糖化・発酵させて製造する液体燃料で、石油などを原料とする合成エタノールと同じように使えます。ガソリンに混ぜ、自動車燃料として使用することで、CO2の排出量を実質ゼロにする、カーボンニュートラルに貢献します。バイオエタノールの原料となる植物には、サトウキビのほかに、てん菜、ばれいしょ、トウモロコシなどがあります。出典:「令和 4 年度燃料安定供給対策に関する調査等」バイオ燃料(バイオエタノール、バイオディーゼル)の生産及び消費量は、以下のグラフからも分かるように、増加傾向にあります。出典:国際環境経済研究所「バイオ燃料の現状分析と将来展望」また、バイオエタノールの生産は約5割が米国、約3割がブラジルで行われており、上位2カ国で全体の8割強を占めています。持続可能性の高い社会を理想として、各国が脱炭素化を目指すなか、サトウキビは砂糖としてだけでなく、エネルギー分野でもまた、今後一層利用価値を高めていくでしょう。6.まとめサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物で、日本国内では、主に沖縄と鹿児島の奄美地方で栽培されています。国内で栽培されているサトウキビは、その多くが1~4月に収穫され、まずは畑近くの工場でいくつかの工程をたどり、「原料糖」となります。その後、原料糖は県外の工場へと運ばれ、さらに多くの工程を経てやっと、グラニュー糖や上白糖、三温糖などのような「精製糖」となります。サトウキビと砂糖の発祥地は、インドといわれており、最も古い記録では、紀元前4世紀には、すでにサトウキビの栽培と砂糖の生産が行われていたと分かっています。現在、砂糖の生産量第1位の国はブラジルで、2位はインドです。生産量の増加や、加工食品の需要の増加に後押しされ、今後、世界の砂糖需要は増加するだろうと予想されています。一方、日本国内では生産量、需要量ともに少なく、減少傾向にあります。しかし、サトウキビには、バイオエネルギーの原料としてのポテンシャルもあります。各国が脱炭素化を目指すなか、サトウキビの利用価値は高まる一方でしょう。