サトウキビは、砂糖の原料として有名ですよね。でも実は、あらゆるバイオマス活用のできる資源作物でもあり、国内外問わず注目を集めている植物でもあるんです。そこで今回は、サトウキビの栽培にスポットを当てて、解説していきます。1.サトウキビとはサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物です。竹や笹のように節を持ち、茎に含まれる糖分から砂糖を抽出します。温暖な気候を好み、海外ではブラジルやインド、日本では沖縄県や鹿児島県の南西諸島を中心に、栽培が盛んです。特に沖縄では、サトウキビの栽培面積が県内の畑の約半分を占めています。沖縄の方言で「ウージ」と呼ばれ、古くから親しまれています。サトウキビは収穫するまでに、約1年~1年半ほどの期間がかかります。約1kgの重さのサトウキビ1本からできる砂糖の量は、約120gです。スーパーなどで見かける1kg入りの上白糖を作るのに、約8本のサトウキビが必要となります。2.サトウキビ栽培に必要な条件サトウキビを栽培するのに必要なのは、以下4つの条件です。気温日照降水量土壌ここからは、どのような条件がサトウキビの栽培に最適なのか、それぞれの条件について、解説していきます。2-1.気温サトウキビは現在、世界のおよそ80カ国において、さまざまな環境条件の下で栽培されていますが、元々は熱帯原産の植物です。サトウキビの萌芽に適した気温は、約26~33℃、生長に適した気温は約30~34℃で、16℃以下、あるいは38℃以上になると、生長しなくなってしまいます。また、根の吸水は28~30℃が最適で、10~15℃の低温だと吸水できなくなります。さらに、熱帯高地で見られる日中と朝晩の温度差は、サトウキビの茎中の含糖量の増加に寄与することが分かっています。2-2.日照日照とは、直射日光が地表に当たっている状態のことで、作物の栽培は、照度、日射量と日照時間に大きな影響を受けます。日照はサトウキビの根の発生と生長、成熟を促します。照度が高く、日射量が多く、日照時間が長いほど、茎中の含糖量が増加します。サトウキビは光合成の仕組み上、C4植物に含まれます。C4植物とは、光合成の初期段階で、炭素4個の化合物を生成する植物のことです。イネや麦、てん菜など、陸上植物の大半を占めるC3植物よりも、C4植物の方が光合成能率に優れています。そのため、日照が成熟具合や収穫量に及ぼす影響が、より大きいのです。2-3.降水量前述した通り、サトウキビは強い日射を必要とします。それと同時に、年間平均1,200〜1,500mm程度の降水量も必要です。日本の年間平均降水量は約1,700mmで、世界の平均降水量の約2倍です。日本であれば、自然に降る雨の量だけでまかなえると分かります。しかし、年間平均降水量が1,200mmを下回る地域では、干ばつに備えて、かんがい設備を設けなければなりません。サトウキビは生長期に大量の水を必要とする一方、成熟期には必要な水の量が減ります。そのため、栽培には熱帯地域のように、雨季と乾季のある気候が合っているといえます。2-4.土壌サトウキビを含む多くの作物が、土壌から水と養分を吸収するため、土壌の条件も、生長や成熟に深く関わります。サトウキビに最適な土壌は、砂が約 60%で、シルト(沈泥)や粘土を含むこと、耕運、 耕作がしやすい粒状構造で、貯水能力があることなどの条件が挙げられます。カルシウムや窒素、リン、カリウムといった無機養分に、アルミニウムや鉄などの有機物由来の要素を含んでいることも重要なポイントです。また、サトウキビの栽培に理想的な土質は、80〜90センチメートルほどの厚さがあり、水はけが良いことです。地形は平坦か、ゆるい傾斜地であれば農業機械の活用もできるので、サトウキビの栽培に理想的でしょう。3.サトウキビの栽培工程ここからは、サトウキビの栽培工程について、手順ごとに見ていきます。土づくり耕起と整地植え付け手入れ(水やり、雑草・害虫対策)土寄せ(培土)収穫その前に、サトウキビの栽培の作型について、簡単に説明します。サトウキビの栽培の作型には、「新植栽培」と「株出し(宿根)栽培」の2つがあります。文字通り、「新植栽培」は苗を新たに植え付けて始める作型で、「株出し栽培」は栽培2年以降に、収穫後の根株(親株)を残して発芽させる作型です。3-1.土づくり畑の耕起や整地に着手する前に、堆肥などの有機物を使って土づくりを行います。堆肥とは、落ち葉や家畜の糞尿、食品残さなどの有機物を、微生物の力で分解・発酵させた肥料で、土壌改良に役立つだけでなく、サトウキビが生長するための栄養分ともなります。堆肥ではなく、緑肥を使う場合もあるでしょう。緑肥とはサトウキビの休閑期に栽培し、堆肥のように腐熟はさせず、肥料として生のまま畑にすき込む作物のことで、以下のような植物が使われます。クロタラリア(マメ科)ピジョンピー(マメ科)富貴豆(マメ科)ヒマワリ(キク科)ソルガム(イネ科)マメ科の緑肥は地力窒素の増加、ヒマワリは景観向上や後作のリン酸吸収向上、ソルガムは腐植含量の増加と、それぞれ期待される効果が異なります。沖縄県農林水産部では、緑肥を選ぶヒントとして、以下のチャートを用意しています。出典:沖縄県「さとうきび栽培の土づくり(緑肥の活用)」3-2.耕起と整地サトウキビの栽培をイチから始める場合、あるいは畑の更新を行う場合には、「新植栽培」をすることになります。その場合、まずは耕起を行い、次に砕土を行います。耕起は、農地を掘り起こし、土を柔らかくする作業で、砕土は耕起後の土くれを細かく砕き、植え付けの準備をする作業です。それぞれ、トラクターにプラウやプラソイラ、サブソイラなどの農機具を取り付けて行うのが一般的です。3-3.植え付けまずは前述した「サトウキビの栽培の作型」について、軽くおさらいします。サトウキビの栽培の作型には、「新植栽培」と「株出し(宿根)栽培」の2つがあります。文字通り、「新植栽培」は苗を新たに植え付けて始める作型で、「株出し栽培」は栽培2年以降に、収穫後の根株(親株)を残して発芽させる作型です。日本国内のサトウキビの主な産地、沖縄と鹿児島の奄美地方では、1~3月に苗の植え付けをする「春植え」が多く、収穫期は翌年1~4月です。2年目からは収穫後の根株(親株)を残して発芽させる「株出し栽培」に切り替えます。株出し栽培の収穫時期は、春植えよりも少し早い12~翌3月です。出典:BSI 生物科学研究所「実用作物栽培学 サトウキビ」新植栽培の場合、良質なサトウキビの茎を2芽苗分にカットし、土に植え付けます。植えるのは20〜30cmほどの深い溝で、上から軽く土で覆います。株の間は30cmほどの間隔です。株出し栽培の場合は、前回の収穫後に残っている茎を地際(株元と地面の境)で切りそろえる「株ぞろえ」と、古い根を切り、新しい根の発生や伸びを促す「根切り」を行います。その後、肥料の散布を行ってから、畦間の心土破砕と中耕の作業に入ります。3-4.手入れ(水やり、雑草・害虫対策)植え付けから収穫までの間には、水やりや雑草取り、肥料やりや害虫対策などの手入れを欠かさず行います。苗を植えつけたら、なるべく早い段階で除草剤を散布しましょう。サトウキビは乾燥に強い植物なので、水やりを頻繁に行う必要はなく、基本的には自然の降雨に任せて問題ありません。ただし、雨が降らず干ばつ状態の場合には、注意が必要です。水やりが重要なのは、7〜9月の暑い時期です。この時期には水をたっぷりやることで、収穫量の増加につながります。夏場は水ではなく、栄養豊富な液肥をまいてもよいでしょう。害虫は、耕起や農薬(殺虫剤)の散布で、ある程度は予防できます。雑草やサトウキビの枯れた葉は発生源になりやすいので、対策が必要です。3-5.土寄せ(培土)土寄せ(培土)は、「うね間の土をサトウキビの株元に寄せる作業」で、うね間だけでなく株間の土の表面を浅く耕すこともあります。「中耕」ともいいます。サトウキビでは、通常2回の土寄せを行います。一度目の土寄せでは、植え溝を軽く戻す程度で、合わせて追肥も行います。二度目は低めのうねをしっかり形成するように株元に土を寄せ、二度目の追肥を行います。出典:BSI 生物科学研究所「実用作物栽培学 サトウキビ」3-6.収穫国内におけるサトウキビの収穫は、12~翌4月ごろに行われることがほとんどです。収穫時のサトウキビは、2~3mほどの大きさになっています。昔は「倒し鍬」という道具で刈り取りながら切り倒していく「手刈り」が主流でしたが、最近では刈り倒しや裁断もできるハーベスタ(収穫機械)を導入する生産者が増えています。出典:農林水産省「砂糖の原料 「てん菜」と「さとうきび」の生産現場をのぞいてみよう!」直近令和5/6年期の「さとうきび収穫機械稼働実績」によると、収穫されたサトウキビのうち88.8%とおよそ9割が、ハーベスタによって収穫されていることが分かります。4.サトウキビで新規就農するなら補助金・助成金を活用しよう沖縄や鹿児島の南西諸島で長い間受け継がれてきたサトウキビの生産。その伝統や食文化に魅力を感じ、「サトウキビで新規就農したい!」と考える人も少なくないようです。しかし、新規就農するには多額な資金が必要ですよね。そんなときには、国や地方自治体が設けている、就農者を対象にした補助金や助成金の活用をおすすめします。例えば、新規就農者を対象にした補助金・助成金として、以下のような制度があります。農業次世代人材投資資金〈就農準備資金〉農業次世代人材投資資金〈経営開始資金〉強い農業づくり総合⽀援交付⾦青年等就農資金(新規就農者向けの無利子資金制度)※2025年7月現在また、国や県、各市町村によっては、サトウキビを生産する場合に必要となる資金を補助したり、生産量に応じた交付金を準備したりしています。まずは自分に使えそうな制度がないか、探してみるところから始めましょう。5.まとめサトウキビは、砂糖の原料となるイネ科の植物です。国内で生産される砂糖の2割が、鹿児島と沖縄県産の甘しゃ(サトウキビ)から作られています。サトウキビを栽培するには、以下のような条件がそろっている必要があります。気温日照降水量土壌また、栽培は、以下のような工程で行われます。土づくり耕起と整地植え付け手入れ(水やり、雑草・害虫対策)土寄せ(培土)収穫もしサトウキビで新規就農を考えているのなら、国や地方自治体が設けている、就農者を対象にした、補助金や助成金の活用をおすすめします。