アジア圏で「WAGYU」の需要が高まっているのをご存じでしょうか。日本の和牛は海外で「WAGYU」と呼ばれ、日本食ブーム や、高級志向、ブランド戦略という三位一体で拡大しています。しかし海外の「WAGYU」と日本の「和牛」は厳密にいうと区別される存在です。WAGYUは、香港や台湾などの都市部では高級レストランを中心に需要が急増し、今後も輸出市場の成長が続く見込みです。本記事ではWAGYUについての基礎知識から、アジア圏での需要拡大の背景や現状、なかでも急成長しているタイWAGYUについて、詳しく解説していきます。WAGYUの定義とブランド価値とはここでは以下の観点からWAGYUの定義とブランド価値について詳しく述べていきます。「和牛」と「WAGYU」の違いWAGYUの特徴 高級食材としてのブランド力「和牛」と「WAGYU」の違い日本産和牛は、日本国内で育てられた純血種の和牛(黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種)に限定されます。一方、外国産WAGYUは和牛血統を含む交配種も多く、アメリカやオーストラリアなど海外で生産されています。品質基準は国によって異なりますが、肉質は赤身が中心です。表記も日本産は「和牛」、海外産は「WAGYU」と明確に区別されています。WAGYUの特徴海外産WAGYUは、日本産和牛に比べて霜降りが控えめで、赤身の旨味が強いことが特徴です。価格も比較的安価で、コストパフォーマンスの高さから世界的に人気が広がっています。また、和牛が純血種のみを指すのに対し、海外産WAGYUはホルスタインなどとの交雑種が多く含まれます。さらに飼育環境も異なり、日本では穀物中心で飼育されますが、海外、特にオーストラリアでは牧草中心で長期飼育されるため、肉質や風味に違いが生まれます。高級食材としてのブランド力海外の「WAGYU」ブランドは、アメリカ・オーストラリア・イギリスを中心に独自の発展を遂げ、近年はタイなど東南アジアでも成長が加速しています。アメリカでは、1970年代以降に日本から導入した和牛の遺伝子を基に「American Wagyu」が確立され、黒毛系統を中心に生産が拡大しました。オーストラリアでは独自の改良が進み、2022年には49万2000頭が飼養され、肉用牛全体の2.1%を占めるまでに成長しています。イギリスではオーストラリアと同じ定義を採用し、生産量が急増。2023年の出生頭数は純粋種2203頭、交雑種3万3347頭で、交雑種が9割以上を占め、2019年比で6倍以上に増加しており、将来的にも拡大が予想されています。アジア圏での需要拡大の背景日本産の和牛はアジア圏での需要も非常に高まっています。ここでは拡大の背景やアジア圏での和牛の現状について、以下の3つの視点からみてみましょう。その上で海外産WAGYUの展望について解説していきます。経済成長に伴う中間層・富裕層の拡大高級志向の食文化の浸透日本食ブームの影響経済成長に伴う中間層・富裕層の拡大アジア諸国では近年、急速な経済成長が続いており、中間層・富裕層の人口が大幅に増加しています。特に中国、シンガポール、香港、タイ、ベトナムなどで裕福層が増えており、外食や高級食材への支出が一般化しつつあります。高所得層は「安全で高品質な食材」を求める傾向が強く、特に和牛は「ステータス性の高い食材」として認知されています。高級志向の食文化の浸透アジア圏での和牛人気は、外食産業の発展とともに高級志向の食文化が広がっていることも大きな要因です。例として高級焼肉店、鉄板焼き、ステーキハウスの増加、さらにはホテル・高級レストランでの和牛採用が一般化しています。特に中国やシンガポールでは、和牛の「とろける食感」や「霜降りの美しさ」が高く評価され、ブランド牛の中でも和牛は別格の扱いを受けています。日本食ブームの影響世界的な日本食ブームはアジアでも顕著で、和牛需要を強く後押ししています。寿司・天ぷら・しゃぶしゃぶ・すき焼きなど日本料理店が急増しました。日本の食文化=“ヘルシーで高品質”というイメージが定着し、観光で日本を訪れた人が帰国後も和牛を求める傾向があります。和牛からWAGYUへ前述したように和牛の人気はアジア圏で大きく拡大しています。それと同時に安価な海外産WAGYUの人気も向上し、アジア圏での需要が拡大しているのが現状です。海外産のWAGYUの味や品質は年々高まっており、日本でも安価に手に入るため、存在感は増しています。そのため今後はさらなる需要の拡大に繋がる可能性があり、アジア圏のWAGYUの動向は注目されています。アジアの事例アジア各国で和牛は「高品質・高級・特別感」を象徴する食材として定着しつつあるため、経済成長、日本食人気、SNS文化、観光産業の発展などが相まって、今後も市場拡大が見込まれています。現在は日本産の和牛が中心ですが、今後は海外産のWAGYUの増加の可能性もあります。ここではアジア各国の和牛や日本食についての動向をそれぞれ解説していきましょう。香港・台湾香港はアジアでも屈指の和牛消費地であり、ミシュラン星付きレストランや高級焼肉店が多数進出しています。輸入体制が整っていることに加え、食に対する支出意欲が高い都市であるため、A5ランクなどの最高級和牛が日常的に流通しています。台湾でも日本食ブームが長期的に続いており、焼肉・すき焼き・しゃぶしゃぶなど和牛を主役にした専門店が増加しました。若年層の「ご褒美消費」としても定着しつつあります。フィリピンフィリピンでは経済成長に伴い中間層・富裕層が拡大し、和牛の需要が急速に伸びています。特にマニラの高級モールや、ホテルレストランでは和牛メニューが定番化しました。日本食レストランの増加も追い風となり、和牛は「特別な日の食材」として認知されているほどです。また、SNS文化が強いことから、和牛の“映える”要素が若者層の消費を後押ししています。カンボジアカンボジアでは外資系ホテルや高級レストランを中心に和牛の取り扱いが増加しました。観光産業の発展に伴い、外国人旅行者向けの高級ダイニングが増えたことが大きな要因と言えます。現地富裕層の間でも日本食への関心が高まり、和牛はステータス性の高い食材として浸透し始めています。シンガポールやベトナムでも高級食材として定着シンガポールはアジアの食のなかでも和牛の普及が最も進んだ市場の一つです。高級ステーキハウスや焼肉店が激戦区を形成し、産地別(神戸・宮崎・鹿児島など)のブランド和牛を選ぶ文化も根付いています。またベトナムでも急速な経済成長により、高級食材市場が拡大し、和牛は富裕層や外食産業で高い評価を得ています。特にホーチミンやハノイでは和牛専門店が増え、贈答用としての需要も高まっています。タイWAGYUについて解説ここではタイのWAGYUについて拡大する背景や特徴や品質について解説していきます。タイの牛肉ブームの背景近年、海外産WAGYUの中でも特に注目を集めているのが「タイWAGYU」です。タイではもともと乳用牛や役用牛の飼育が中心で、肉質は和牛のような霜降りとは異なるものでした。また近年までタイは肉料理は鶏や豚が中心であり、牛肉を食べる人は多くありませんでした。しかしタイから日本に出かけるタイ人観光客が急増してきたことを背景として、タイで日本食ブームが高まりました。日本の焼肉やしゃぶしゃぶ、すき焼きなどの牛肉メニューを出すレストランも急増し、牛肉を食べるタイ人は増加したのです。しかし日本産の和牛は、裕福層以外の庶民にとってはまだまだ高価であるため、安価なタイ産のWAGYUの需要が、少しずつ拡大していったのです。タイWAGYUの特徴や品種タイでは1970〜80年代にかけて黒毛和種を中心とした和牛精液や種牛が導入され、在来牛やブラーマン種との交雑が進められました。ブラーマン種は高温多湿な気候に強く、和牛の肉質と組み合わせることで「高品質な肉」と「強健性」を両立させることが可能となり、タイ独自のWAGYU改良が本格化したのです。その後、「Thai Wagyu」という名称が広まり、バンコクや観光地の高級レストランを中心に供給が拡大。タイ国内の日本食ブームも追い風となり、2022年には日本食レストランが5,000店を超えるなど、和牛需要は急速に高まりました。輸入和牛よりもコストを抑えられ、かつ国内生産ならではの鮮度の高さが評価され、タイ産WAGYUは「プレミアム和牛」としての地位を確立しつつあります。2025年時点でタイWAGYU市場は成長軌道にあり、2031年までのさらなる拡大が予測されています。世界の和牛市場は2025年に274億米ドル規模、2035年には4,789億米ドルに達するとされ、今後タイWAGYUもこの成長トレンドと連動して発展することが見込まれます。今後、タイはアジアにおけるWAGYU生産国として存在感をさらに強めていくと考えられます。タイのWAGYU生産地事例スリン県スリン市サラクダイ区には、150人が所属する「サラクダイ区包括的スリン神戸和牛コミュニティ・ビジネス・グループ」の代表が110頭の牛を飼育していることが伝わっています。生後4〜5カ月、体重120キロほどの子牛を導入し、約30カ月かけて700〜800キロまで肥育して出荷しています。飼料はトウモロコシ、キャッサバ、地元産ジャスミンライスの砕米や米ぬか、大豆カス、パーム椰子の搾りカスなどを混ぜ、牛が好む配合にして与えています。またタイで知名度が高いスリン県産のジャスミンライスを入れた餌で和牛を育てていることから、「スリン和牛」と名付け「GI(Geographical Indication=地理的表示)」認定の取得も目指しています。参照:日本語工業情報誌『EMIDAS』タイの「和牛」 東北部に肥育農家が急増飼料のひとつソルガムとはWAGYUの飼料のひとつにソルガムがあります。ソルガムはサステナビリティな穀物であり、乾燥に強く再生力が高い優れた飼料作物で、CO₂吸収量も多く温室効果ガス削減に寄与するため、持続可能な飼料として期待されています。またバイオガス利用など循環型畜産との連動も可能にします。まとめ:アジア圏でのさらなる需要拡大の可能性アジア圏では経済成長、日本食人気、高級志向などが相まって、日本産の和牛だけではなく、手軽なWAGYUの需要が今後も拡大すると見込まれます。特にタイWAGYUのように、各国で独自のWAGYUブランドが育ち始めており、アジアは世界のWAGYU市場においてますます重要な地域となる可能性が高く、今後の動向が注目されます。そのためにも日本産和牛と海外産WAGYUとの差別化は今後しっかりと行われる必要があります。